あの頃の私は結構必死で、
迫りくる自称師匠の変態とナルシストとマイペースから身を守ることだけ考えていた。
何とか鼻を明かしたい一心で考え出した発は、
なんていうか、
ちょっと後悔している。
トリップ×3
「Open The World to Gate!」
言いたくない。
言いたくないが、言わねばならぬ。
それが能力の代償ってやつらしい。
「Change The スレイヤーズ!」
声高らかに唱えた瞬間、体光に包まれ衣装チェンジのお時間だ。
あああ、もう死にたい。死なないけど。
「type リナ=インバース!!」
光が収まり変わった服装。
ビシッと一発決めポーズ。
「あーもあーも、本当にあーもう!私っ!!」
因みにこの間約一分。
その間に攻撃されると一貫の終わりなので戦闘中にこの技を使ったことはない。
その前に羞恥心で死ねる。
今現在も円で周囲に誰もいないことを確認してのこっそり変身タイムだ。
これが私の発『Open The World to Gate!』
開け、世界への扉。
そのままだ。
ネーミングの悪さは自覚している。
自分の知っている世界、つまり漫画、小説、ゲームの技が使えるというかなりの裏技。
一応自分の他に知っている人がいると使用不可能だとか、その世界に渡った時には二度と使用出来ないだとか、まあいろいろ制約はあるものの一番しんどいのはこの約一分間の変身シーン。
このかなりの裏技が使えるのは半分ぐらいこれのおかげだ。
後の半分はわざわざ衣装チェンジしなければならないこと。
いくら肉体年齢十九才といえどなんてゆーか無理無理無理。
精神年齢が発達している思わないが三十路間近まで生きた記憶があるため何だか異常に恥ずかしい。
確かにオタクだったが古きゆかしき隠れオタクの羞恥心舐めんなよ。
「さて、と」
某天才美少女魔道士のマントをなびかせ林を走る。
瞬身など忍術は使えなくなるが身体能力は落ちていないので翔封界で飛ぶより走った方が楽なのだ。
じゃあ何故わざわざ恥ずかしい思いをしてまで発を使ったかというと、
「地精道!地精道!地精道!!もひとつおまけに地精道!」
ぎゃーとか、わーとか戦闘中の皆さんの足元に徹底的に穴を開けていく。
地面の下数センチに穴を出現させているので皆面白いようにはまっていく。
「はい、黒霧炎、黒霧炎、黒霧炎!」
続いて黒い霧を発生させ目眩まし。
「ほい、明り、明り、明り〜」
別の場所ではただの明かりを生み出しその辺にぽこぽこ置いていく。
それだけで十分脅威になるだろう。
「よっしゃ、氷の矢!氷の矢!氷の矢!!」
ついでにところどころ地面を凍らしておく。
つまり、目的は覆面さん救出と戦場の混乱。
源氏を逃がすのが目的だが、正直どっちがどっちだか全くわからない。
攻撃して死なれても後味悪いので適当に自力で逃げて欲しいと切に願う。
「わ!な、何で?凍って、る?」
地味な嫌がらせという罠に勤しんでいると何やら聞き覚えのあるいい声、なのにヘタレ感満載の男の声。
なんていうか、自分の衣装が恥ずかしいので木の後ろから様子を伺うと、ツンツン頭のヘソだし兄さん。
ああ、間違いない。
だって格好変だもの。
「・・・・八葉の人?」
「っ!!誰だ!!」
声をかければ表情一転、鋭く銃口をこちらに向けられた。
「ごめんなさいごめんなさい!」
木陰から上半身を出して両手を挙げて無抵抗をアピール。
撃たれても逃げれるけど撃たれたくない。
だって人間だもの。
「えーっと望美ちゃんと友達になったです。現在三食おやつ付きを条件に金髪の覆面さんを捜索中です」
「金髪、覆面って、リズ先生がこっちにっ!?」
警戒は解かず、しかし情報に関してはしっかりと反応する。
なんだ、この人結構できる人じゃん。
ゲーム中はあまりのヘタレさに笑い転げたけど。
「うん、味方を逃がすために身を捨てて、って感じだったから探して連れて帰るのが私の任務ですヨ」
「君が・・・・?」
「ええ、私が」
不審そうなのはしょうがない。
だって黒づくめでマントでショルダーガードて。
まあ八葉みんな派手だか浮きはしない。
「別に信用しなくてもいいけど、ここら一体は足元凍ってて、あっちの黒いのはただの目眩まし、あの辺は落とし穴がめっちゃあるから。こっちの明かりはただの明かりだから帰るならこっちから帰ってね?」
まだ仲間の人いるよね?と確認をとったらヘソだしさんは何故か銃を下げて頬をかいていた。
「えーっと、ちゃんって、言ったっけ?」
「はい、です」
ついでに手も挙げてみる。
「本当に、俺たちを、助けてくれるの・・・・?」
「っ!」
前言撤回。
立派なヘタレさんだ。
なんだその泣き笑いの表情は!けしからん!胸キュンしそう!
何でだろう?最近周りには肉食系の変態俺様無表情しかいなかったせいだと思われる。
「・・・・え〜、ある程度は助けますが、一応任務は覆面さんの確保なのでヘソのおにーさんは何とか自力で帰ってくださひ」
「いや、ありがとう」
「〜〜〜っ!!」
だからその顔!!
心底ほっとした顔を目撃きしてしまい思わず額を木に打ち付ける。
「ど、どうしたの?」
「何でもないデス。それよかこれ」
先ほど神子メンバーにも渡した兵丸薬を取りだし、ちょっと恥を感じつつも少し近付いて差し出した。
「これは・・・・?」
「兵丸薬デス。もっすごい不味いんでアレですけど体力回復するんで。・・・・怪しいですが毒ではありません」
戸惑いの視線の中、仕方なく一つを口に放り込む。
ううう、ラッパのマークの薬を間違えて噛み砕いた味がするよ・・・・
「・・・・ごめん、ありがとう」
「あ〜・・・・怪我人にはこの薬と血止め、あげときますから。上手にお帰りください」
だからその顔は止めて!
思わず赤面した顔を誤魔化すために、大盤振る舞いでぽいほい薬を手渡す。
忍はポーカーフェイスだってイルカ先生言ってたのに!
まあいっか先生が出来てなかったからな。
「じゃあ、私はこれで・・・・」
「ちゃん!」
このままじゃ私、ただの変人だと自覚はあるのでささっと行こうと踵を返すと呼び止められた。
「はひ?」
何だろう、嫌な予感しかしない。
「確かにリズ先生を助けても欲しいけど、君も、気をつけて」
真剣な瞳でこちらを見てのヘタレ発言。
もーイヤ!何なのこの人!どーして俺も行くみたいなこと言えないの!可愛過ぎるやろうー!!
「っっっ!ヘソさんもね!!」
惚れてまうやろー!と叫ぶことも出来ずおかしな捨て台詞で走り去る。
後ろから、ヘソさんって俺は景時って名前がとか何とか聞こえたが、聞こえなかったことにする。
まあいいや、とりあえず覆面さん探してさっさと帰ろう。
何か心臓もたない。
「くっそ〜ときめいちゃったな〜」
私の胸キュンを返せと下らない独り言をいいながら戦場に身を踊らせた。