月日は巡る。
 
 
 
 
あたしを置いて。
 
 
 
 
 
 
 
 
四歳のこと。 
 
 
 
 
 
 
 
「ほら、ドミューシア、抱いてあげて?」
 
「う、わぁ・・・・」
 
 
 
 
原作通りチェイニーが産まれた。
普通の赤ちゃんだ。
とびきり美形でも、前世の記憶を持っているわけでもない、普通の子。
 
 
 
 
「・・・・チェイン」
 
 
 
 
あたしの罪悪感を埋める、
 
あたしに現実を見せつける、
 
やっと産まれた、
 
 
 
普通の子ども。
 
 
 
 
 
「可愛いでしょう?あなたも、こうやって産まれてきたのよ?」
 
 
 
 
 
穏やかに笑うマーガレット。
 
(でも、貴女の長女は)
 
同じように愛を与えてくれる、ママ。
あたしは素直に頷けなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(あたしは、)
 
 
 
 
(この子と一緒じゃないんです)  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あたしの最近は主にこの赤子と共にある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
四歳、がんばる。 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うっわ!チェインそれたべちゃダメー!!」
 
 
 
 
 
どこに落ちていたのか小さなキャップを口に入れようとする赤子。
一体そんなもんどこで見付けたんだ!
思わず叩き落とす。
 
 
 
 
 
「ぅっ」
 
 
 
 
 
と、当然。
 
 
 
 
 
「おぎゃぁぁぁああああ!!!!」
 
「ああああああ、チェイン!ごめん!ごめん!」
 
 
 
 
 
とりあえず、平謝ってみるが赤ん坊にわかるわけもない。
くっそ〜!やっぱり赤子は赤子なんだ!
あたしはこんなんじゃなかったぞ!
数年前の『赤子はみんな前世の記憶持ち』という設定は見事に崩れ去った。
 
 
 
 
 
「ちょっとママ〜!!チェインが〜!!」
 
 
 
 
 
チェイニーをあやす為、小さな体で精一杯赤子を抱き上げる。
重っ!
そもそも、何でこんなことになっているかといえば、
 
 
 
 
 
「あらあら?チェインったらおしめかしら?」
 
「ちがうの!なんかへんなのたべようとして、そんで」
 
「まぁ、ちゃんと見ててくれたの?ドミはえらいわねぇ」
 
「ちがっ!そーゆーことをいいたいんじゃなくて!」
 
「うぎゃぁぁあああ!!」
 
「えぇい!なくな!かいじゅうか!きみはっ!」
 
 
 
 
 
マーガレットのせいだ。
否、彼女が悪いわけじゃない。
 
長女は現在精神年齢三十路間近のあたし。
妹程の年齢のマーガレットにおしめを代えられた時は老後を想定して乗りきったりしていた赤子が手間のかかる訳もなく。
 
長男は天使に拐われた金色狼。
手間も何も授乳もまだでかっさらわれたのでとてもカウントできない。
 
つまり、何がいいたいかというと、
 
 
 
 
 
「ほぅら、ママよ?チェイン〜?」
 
「うっわ!ママ!ちょっと!首座ってないからね!?」
 
 
 
 
 
マーガレット、初普通育児、なのだ。
ものすっごい危なっかしい。
自分で体を自由に動かせなった時代を思い返すと、かなり恐ろしい。
良くぞまともに育ったものだ、と自分で自分を褒めたい。
 
目を放せばマーガレットはあっちでお茶を溢し、チェイニーはこっちで泣きわめき。
そんな日常。
赤子が二人いるようだ。
四歳にして育児ノイローゼになりそうだ。
 
 
 
 
 
「ん〜お腹がすいたのかしら?」
 
「だから、ちがうんだってば!」
 
 
 
 
 
育児の忙しさに目が回る。
我が次男がまともに育つかは、あたしの柔な双肩にかかっている気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(生きるって、何て忙しい)
 
 
 
 
 
 
(きゃー!ママ!まってまって!!)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シリアスなんて蹴っ飛ばして、
思い悩んだことなんて、
ちっぽけかもしれない、
おおごとかもしれない、
でも、
飛び込んでみないと、わからない。
 
さあ、
ざぶんっと、いってみようや。

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