画面に映ったのは初老の男性。
キャスターが口にした名前に目が飛び出た。
五歳のこと。
「パパっ!!」
あたしは視線をテレビに奪われたまま大声を出した。
否、大声を出すつもりではなかった。
ただ、大きくなってしまっただけで。
目を見開きテレビ画面にかじりついた。
目も飛び出ているかもしれない。
つらつらと喋るキャスターの女性。
えぇい!建物も船もどーでもいいから!!
「ど、どうしたんだ?ドミューシア?」
実に久しぶりの休日をまったり、ゆっくり始めようとしていたアーサーは娘の奇行に目を白黒させていた。
申し訳ないが、そんなことはどうでもいい。
問題は彼だ。
「ドミ?」
年を取ってもその生命力は失われず、生気が体を包んでいるかのように溌剌としている。
テレビから聞こえる声は滑らかで深みがあって、即ち渋い。
七十歳過ぎとは思えない肉体。
そう、彼だ。
「あたし、このひとにあいたい!」
「クーア総帥にか!?」
そう、ケリー・クーアに!
今会わずしていつ会うというのだ。
後数年で彼も死んでしまう。
生き返るのは百も承知だが、それを待っていたらいつになるか分からない。
てゆーか、総帥時代のキングにも会いたい。
ただのファン根性以外の何物でもない。
「おねがい!パパ!」
戸惑いを見せるアーサーが憎い。
今までいい子だったでしょ?
チェインの面倒もママの面倒もみてるよ!あたし!
すっげー頑張ってるよ!あたし!!
ここで発揮せずいつ発揮するというのだその肩書きっ!
頑張って州知事!!
酷いことを思っている自覚はあるので懇願の姿勢だけは可愛らしくあろう。
父親孝行な娘だ。
神にでも祈るように手を組みアーサーを見つめる。
「いつだったか、確かパーティがあるとは聞いてるが・・・・」
きらりっとあたしの目は輝いた。
流石アーサー!頼りになる!よっ!主人公の(認めてもらえない)父親!!
テレビの前から素早く移動し、あたしはアーサーの膝の上に飛び乗った。
「いくっ!いきたい!おねがいパパ!いいこにしてるから!おしごとのじゃま、ぜったぁいっしないから!!いっしょうのおねがいっ!!」
ちなみに、『一生のお願い』は一生の内にたくさんあるのは周知の事実だと思う。
「連れて行けなくはないが・・・・どうしたんだ突然?」
そんなの決まってる。
あたしは可愛いおててを力強く握り、雄雄しく振り上げた。
「ひとめぼれよっ!」
その後、何日かショックに打ちのめされたアーサーを慰め続ける事になった。
(男親ってめんどくさいなぁ)
(だいじょうぶ、パパがいちばんだいすきよ)