驚愕の新事実はさて置いて。
2歳、奮闘する。
「ちょ、ちょっとまってよママと・・・・てんし」
痛む額を押さえ二人の会話に口を挟む。
嫌な緊張に手が汗ばむ。
あ、天使って言っちゃった。
ええい!幼児の戯言だ。許せ!
「なに?」
「ドミューシア?」
あ、痛い。
この『あ、いたの?』的雰囲気。
勢いで必死に声をかけたというのにこの仕打ち。グレるぞ。
冷たい視線がこの柔らかい肌を突き刺す。
天使だ。
怖っ!天使怖い天使怖い!
待ちに待った太陽に会えた喜びに浸っている天使に声をかける事のなんと勇気のいることか!振り向いた闇の天使は顔こそ笑っているもの蒼い瞳は冷たさを帯びている。
これが彼の本性というわけか、なんて格好つけれるわけもなく、生唾を飲み腹に力を入れた。
二度目の人生ここで終結だけは避けたい。
「えっと、いや、あのね、そのこ、つれてくのはいーんだけど」
「ドミ、エドワード、よ?とっても可愛らしいの」
ころころと鈴が鳴るように母が笑う。
空気を読まないママが憎い。
「こんなに可愛らしいんだもの。妖精さんがお迎えにきたのね」
頼むから黙っててくれ。
懇願したくとも恐怖と二歳児という身体の都合で口が廻らないので母の訂正を受け入れるしかない。
くそう!天然が標準装備のママめ!
「うん、ママ、えどわーどをね、パパにもいわずにあげちゃうとパパ、ないちゃうとおもうの」
「そうねぇパパ泣いちゃうかしら?」
つーか不義を疑われるからマジやめとけ。
「パパに言えばいいの?」
天使は今すぐにでも飛び出して行く勢いだった。
「だから、ちょっとおちつけっての」
あ、本音がこぼれた気がします。
ついでにイライラのあまり手を腰にあて髪をかきあげため息をついた。
あー。疲れる。
「君、変わってるね」
この子のお姉ちゃんだからかな、と呟く天使の腕の隙間から見える美しい金色。
白雪のような肌。
薄く開いた翡翠の瞳。
美形の赤子を初めて見ました。
同じ腹から産まれているのに何故こんなに違うのか。
「バロックヒートのかごでも、うけたのか?わがおとうとよ」
「バッロクヒート?」
「いせかいのまほーのおーさま。ごほんにでてきたのー」
ちょー気にしなくて結構。
「ともかく、いちおーおとうとはにんげんなんだから、ずーっとてんしのくににつれていかれると、かれてきに、よくないとおもうわけよ」
「この子は僕の太陽なのに」
てっきり強制的に去るか無視か攻撃かとびびっているところ意外に素直に天使は顔を歪めた。
「それはみとめよう。でも、かれはあたしもてらしてくれるとおもうの。たいようだからね」
「君も?」
目を丸くする闇を司る天使。
その仕草が幼さを帯びていてあたしは目を細め笑った。
そういえば、この二十歳過ぎに見えるこの青年はまだ産まれて十年たっていなかった気がする。
「なんともまあ、じんせいなにがおこるかわからないわねぇ」
あたしはそう呟いて肩を竦めた。
まさか産まれた先が昔読んだ本の中だなんて思いもしなかった。
それを言うならあそこであんな形で死ぬなんて思ってもいなかったし、生まれ変わるとも思わなかった。
人生ってとっても摩訶不思議。
とにかく、いつまでこの記憶が残っているか分からないが、危なくない程度に関わりたいのがファン精神だと思う。
今のうちに覚えていることを日本語で書き留めておこう。
果たして記憶を忘れた時に日本語を覚えているかは知らないが。
「君、本当に赤ちゃん?」
「しつれいね!あたしもうにさいよ!あかちゃんじゃないわ!!」
お願いします、誤魔化されてください。
内心汗をかきつつぷりぷりと怒ってみせる。
「君も心が読めないんだね。キングと一緒だ」
「こころをよむなんてマナーいはんよ!てんし!」
シャアッ!心配事ひとつ減ったぁ!!
てか、キング!キング!ちょー会いてぇ!!てな事を脳内で思いつつ返事をしたあたしはなかなか役者かもしれない。
大丈夫だよ、読めないんだし、と天使はやっと優しい笑顔を浮かべた。
物凄い美しい。
「分かった。じゃあこの子と相談して連れてくるよ、それでいい?」
「いいかわるいかのはんだんしにくいけど、いいよ。あたしにこのことちゃんとあわせてくれればね」
まあ、それが本音ですがね。
この後、確実にアーサーがキレて家族崩壊の危機に陥るだろう事を予測しつつ、それでも天使とこの金色狼の事を思い、あたしは二歳児らしくなく頷いたのだった。
(さあこの世界、どうやって生きていこう)
(まあパパは感動的に大泣きして黙らせよう)