一応
これでも成人女性なんです。
頭脳は大人、体は赤子なんです。
一歳と何ヶ月かのこと。
「ほぅら、パパだよ〜?いってごらん?パァパァ」
「・・・・ぴゃぁ〜」
「ほら、ママよ?ドミ〜?ママって言ってごらん」
「・・・・みゃぁ〜」
うわーめんどくせぇ。あ、ごめん。違う間違えた。ごめん父母。
ちょっと純日本人で四半世紀生きた記憶があると妙な恥じらいがあるってゆーか。
パパママって将来的に舌噛みそうなんでお父さんお母さんではいけませんかね?
貴族ならお父様お母様かな?うあ。どっちにしろ薄ら寒ぃな。
あー違う違う!本音が、じゃねぇや。えーあーもー。
「ドミューシア?そ、そのっ泣かなくていいんだぞ?お、おい?」
「あらあらドミったら悔し泣きかしら?かわいいわねぇ」
赤子あるまじき邪悪さについ項垂れたのを良いように解釈したこの父母は、結構いい性格だと思う。
(三歳には普通の赤子に戻るはずだから、それまで我慢してね?)
(この世界のいとおしい、パパとママ)
***
驚愕の事実発見。
どうやらあたしは根本から間違えていたらしい。
二歳のこと。
弟が産まれるらしい。
おぉ!やるなあ父母。
と懐妊の話を聞いた時にグッジョブと親指をつき出した。
うん。
嫌な幼児でごめんよパパママ。
短い足でてぽてぽ歩き母親の部屋へ向かう。
弟との初めてのご対面だ。
「ママ〜?」
「お願い、この子を頂戴。この子はこの世界では生きられないんだ」
「そうなのね・・・・そう。妖精さんがそう言うならあげるわ」
ガツンっ
あたしは声もなく扉へ頭を打ち付けた。
頂戴て。
あげるて。
お前らその会話はどーなんだ。
人ひとりの人生をノリで行くな!
特にあんた!母親だろう!!実の息子をあげるて!おい!!
とかいう様々なツッコミは口から出なかった。
そんなに口が回らないのもあるが。
その情景はあたしの脳へ大きなショックとひとつの答えを導いた。
身の丈を覆う長く美しい闇色の髪。
海を思わす深く蒼い瞳。
誰もがひれ伏すその美貌。
黒くずるずるした服の中に収まる金の髪の赤子。
そして、
『妖精』
否、
『天使』
(暁だったんかーいっ!!)
ジンジンと痛む額を押さえこの可笑しな第二の人生に、渾身のツッコミを入れた。
(むしろなんで気づかなかったんだ、あたし)
(確かにパパはアーサーで偉い人。ママはマーガレットで天然美人)