「ねぇ、ドミ。これってどう思う?」
「・・・・これってナニさ?」
頼むから、主語述語を使って話せ天使。
25歳、王妃を待ちながら。
「絶対、棒はここを指してたんだ」
「じゃあここなんじゃないの?」
「でもエディいないんだもん」
もんって言うな、可愛いから。
王宮客室仕様の大変張りの良いソファーにだらしなく寝そべり、これまた王宮客人仕様の大変香りの良い紅茶を音をたてて啜る。
いつもなら、お行儀悪いよドミ、ぐらいの忠告くらい来そうなものなのに、天使はじっとティーカップを睨み付け、こちらを見ようともしない。
はあ、とため息ひとつこぼし、あたしはまた紅茶を啜った。
天使がデルフィニアに来て数日、あたしが天使の傍を離れた事はない。
言わずもがな、そこが一番安全だからだ。
芙蓉宮から引っ越す際にかなり子栗鼠さんに泣かれたが、背に腹は変えられない。
一応後ろめたく思い、昼間天使と二人で遊びに行ったらまた泣かれた。
泣き止ます為にいろいろ約束を取り付けてきたので、天使と王様、帰ってきた金色狼と銀色さんも巻き込もうと思う。
また王宮での評判も良くない。
いや、正確にいえば悪い。
いい年した男女が同室同衾とかありえないしー、みたいな風潮は現代よりもドミの時代よりも厳しい。
王様のみちょっとびっくりしたぐらいで許してくれたので、今宮廷では相当噂が走っているところだろう。
「ないわー天使とどーこーなんて絶対ないわー」
「ちょっと!真面目に聞いてるの?」
「ごめん」
聞いてない、は胸中にしまったもののバレバレらしく天使はしかめっ面を作った。
美しさには遜色なしだ。
「頼れるのはドミだけなのに」
「え、何?その恐ろしい台詞」
物騒すぎるわ、と姿勢をただし天使から距離をとる。
といっても対面式のソファーなので逃げてもすぐに背もたれにぶつかるのだけれど。
「だって、ドミは『星』でしょう?」
「違う違う。その確信に充ち溢れた疑問符止めて」
ちゃんと疑問系にして。
ちゃんと否定してあげるから。
「僕をここまで導いてくれたのに?」
くるりと回る瞳が可愛い。
「不可抗力」
あたしも来ちゃったし。
というか、全力で非一般市民扱いは止めていただこうか。
特殊設定はもう十分だ。
「違わないよ。導きの星、」
「や〜!!リィはどこにいるのかなあ!!」
ボンジュイの古い言葉で、とか恐ろしい言葉が聞こえてきたので慌てて遮る。
すると途端に曇る天使の美しい顔。
効果は抜群だ。
「だからドミ!!何か分からない?」
この髪さえほどければ、とイライラと括られた髪を低く天使。
金色狼に会えたらほどいてもらえ、と仲間内(と書いて人外、と書いてボンジュイと読む)の約束らしい。
正しい判断だ。
ついでに、人に八つ当たりしない事も約束にいれておいて欲しかった。
イライラに合わせて髪が動き出してるのが非常に恐怖だ。
また首を絞められるのは御免である。
「嫌な予感がするんだ」
「ふん・・・・なるほどねぇ」
天使がデルフィニアに訪れた、となれば物語もクライマックス。
最後には一体何があったのか。
記憶を掘り起こす。
天使の為ではない、自分の安全性を高める為だ。
別にツンデレーションを起こしているわけでも、天使の髪が絡み付きだして怖かった訳ではない。
ないったらない。
「う〜ん・・・・」
「ドミ?」
子犬の皮を被った天使が顔を除き込んでくるので適当に顔面を撫でる。
うぶっ!ちょ!ドミ!?と慌てた声が聞こえるが天使の意向を汲んで思い出しているのだから少しは我慢したらいい。
「ラスト、ラスト・・・・」
黒すけ氏が銀色さんに殺されたのは覚えてる。
では猫すけさんの行方は?
「・・・・んー?」
最終的にはリィが魂を預かって、つまりは死ぬ予定にあった猫科の彼。
黒い太陽と新月、の彼ら。
白い太陽と月、の彼ら。
光と闇、の彼。
で、
導きの星、のあたし。
「悪い予感しかしないわ」
「でしょう!!」
あたしの言葉に勢いを付け王様に聞いてこよう!と席を立った天使に引きずられながら思わず呟く。
「マイペースだなぁ、天使」
知ってたけど。
と呟きながら王様と酒盛りをし、
最悪の一報に唇を噛むまで、
あと少し。