二十五まで生きて死んだ私と、
十五まで産まれて生きていたあたしと、
あたしは一体どっちなんだろう。
15歳? デルフィニアにて。
とりあえず泣いた。
ガンガン泣いた。
泣いて泣いて泣きすぎて、気付いたら体を拘束していた人達が皆手を放しておろおろしていた。
それでいいのかデルフィニア。
そもそもその時点ではあたしに余裕は全くなく、体が自由になったと気付いたのも、自分の頭をかき抱いておいおい泣いて途中で気持ち悪くなってえずき出してからである。
駄目です、あたし。
とにかく悲しい。
今までやって来た事が全て無意味だった時のように。
今までの出来事が全てなかった事だったかのように。
目の前が真っ暗でこのまま、また死んでしまうんじゃないかと思った。
それならそれでいい、と思った。
その時だ。
「いい加減にせんかっ!!」
雷が落ちた。
「仮にも王妃の姉を名乗るのならばしゃんとせいっ!!」
正確には、雷かと思う程の大音量で放たれた言葉だ。
発信源は初老の彼で、周りの皆様は王様含め若干ビビり気味で、
「・・・・あいっ!」
あたしはそれで目が覚めた。
幼児の様にぐしゃぐしゃになった顔をごしごし拭い、王様に向かって座ったまま頭を下げた。
「ご、めっんなさ、い。ふそ、不測の事態、に、どうよう、しました」
嗚咽が残ってるのがダサ過ぎる。
何とか呼吸を戻そうと胸をとんとんと叩くがあまり意味がない。
そんなあたしを見て王様は微笑ましそうに笑った。
「一度リィにお主の事を聞いたことがある」
「へ、い?」
「まだ出会ったばかりの頃だ。家族はおらぬのかと問うとここにはいない。けれど向こうに相棒と、変わった姉御がおるとな」
お主の事であろう?と茶目っ気たっぷりにウインクをもらってしまった。
「うん、いえ、はいっ」
そう、あたしはお姉ちゃんなんだから。
二十五歳だった私も、
十五歳だったあたしも、
全部ひっくるめて、
今のあたしだ。
足してみると信じられない年齢になって、
ちょっと笑える。
「全く!陛下もお人が悪い!」
強張った顔で、それでも少し笑っていると、初老の彼が罰が悪そうにぷりぷり怒っている。
「それならそうと申して下されば良いものを!我々とて婦人に無体を働くつもりなどないのですぞ!」
「すまんなドラ将軍。俺も確信がなかったのだ。許せ」
初老の彼はドラ将軍だったのか。
しぶ〜いかっこいい〜おじーちゃーん。
決して爺専ではないが、トータルの年齢でいけば王様よりも将軍との方がお似合いかもしれない。
あ、娘さんがいたな、確か。シャーミアン、だった気がする。
そんな事を考えながら、思わずぽかんと口を開けて見ていたが今はそれどころではない。
「あのっ皆さん!リィが、お世話になっています」
今度はしっかりと背筋を伸ばし王様やドラ将軍達に頭を下げた。
世話になっているのはこちらの方だ、とにこやかに笑う王様はやはり大物なのだろう。
キングとは違うタイプの凄い人だ。
「私は、ドミューシアと申します。リィの相棒に巻き込まれてここに来ました。リィとは違ってただの一般人です」
戦えませんから、戦女神の姉なんて祭り上げられたら間違いなく死亡フラグた。
「俺はウォル・グリーク・ロウ・デルフィン。お主の弟には世話になっている」
王様、ウォルはすっと立ち上がりあたしの目の前にくるとなんの躊躇いもなく頭を下げた。
この器の大きさに怯む自分を叱咤し、目を見返す。
「リィの相棒がリィを探してここまできます」
「そうか。迎えが来るのだな」
「はい」
何の気負いもなくそう言うウォルに申し訳なく思うが、それはあたしが関与していいことではないだろう。
彼らの、リィとウォルの問題だ。
「こんなことをお願いするのは大変心苦しいのですが、しばらくここに置いて下さいませんか?」
あたしに出来ることなんて、いつも大体ひとつしかない。
精一杯、生きることだ。
「姉弟共々お世話になります」