にっこにっこ笑いながらケーキを山のように方張る天使

と、

眉間にシワを寄せこれでもかってほど苦い顔をする金色狼

に、

挟まれ挙動不審のあたし。

 

 

え?何の罰?

 

 

 

 

13歳、はにかむ。

 

 

 

「えっ、と」

 


とにもかくにも大騒ぎするクラスメイトを置き去りに、目立つ二人を携えて逃げたあたしは悪くない。

 

 

「うわ〜このチョコレート濃厚で美味しい!食べる?ドミ?」

 

 

明日学校へ行くのが怖くて仕方がないが、明日の事は明日考えよう。

 

 

「・・・・ぅっぷ」

 

 

それよりも今日の災難だ。

 

 

「えー、とりあえずリィ。そっち見るの止めて。珈琲を飲みなさい」

「あ、僕の紅茶飲む?エディ」

「うちの弟を殺す気か!!」

 

 

その砂糖とミルクまみれのブツを決して紅茶とは呼ばせない。

何なの何なの?天然なの?

お洒落な喫茶店のテラス席ということも忘れ頭をかきむしる。

一体全体どうしたことだ。

このタイミングから考えてただあたしとお茶しに来たとは考えにくい。

てっきり今までの不審な行動を問い詰められるとばかり思っていた。

なのに、むしろ金色狼いじめに来ました、みたいなこのシチュエーションは一体何っ!?

 


「で、さ、」

 


この居心地の悪さに耐えられず、渋々口火を切る。

これを狙っているのだとすれば大した嫌われようだ。

 


「何、しに来たの?二人揃って、さ」

 

 

思わず目線がさ迷う。

悪いことは何もしていない。

それでも消えない罪悪感と自己嫌悪で視線が下がる。

あぁ、しまったな。これでは来るなと言っているように聞こえてしまう。

 


「遊びに」

「は?」

 

 


余りに短い会話というより単語でしかない金色狼の言葉に目を見張る。

 

「そうだね、後はドミの顔を見に来たんだ」

「え?なんで?」

 

 

天使の回答に思わず口を開いた阿呆面のまま脊髄反射で言葉が飛び出た。

 

 

「心配だったから」

「・・・・心配だったのはこっちだっつの!」

 

 

リィの返事にこれまた脊髄反射で、しかも手までついて飛び出した。

テーブルを打ち付けた掌がじんじんする。

ただでさえ目立っていたテラス席は更に注目を集めてしまいあたしは無言で姿勢を正した。

 

 

「心配だった?」

「空気読め天使。心配だったって言ったでしょ」

「やっぱり、知ってたんだね。ドミューシア」

 

 

ぐっ、と喉の奥で音がした。

やっぱり、と胸の奥が軋んで音をたてる。

 


こんなもんだ、あたしがどんなに想ったって、慕ったって、

世界は意図も簡単にあたしを殺す。

あたしの想いは届かない。

 

胸の中の、誰でも持ってる不信感や虚無感が騒ぎ立てる。

あたしを悲劇のヒロインにしたてあげる。

傷つくことを怖がって傷つけられたと泣き喚く。

込み上げてくるこの感情は感情とも呼べないただの弱くて甘い何か。

身を預けるのにとても適している。

 

 

「っ、」

 

 

それでも、顎を引き、深く息を吐いて吸って、体の底に力を貯めた。

そう簡単に呑まれてなるものか。

そこに身をおく訳にはいかないのだ。

 

あたしは、この人たちが好きだから。

 

 

「前、貴方たちに話した以上の事は知らないわ」

「本当に?」

「知ってたら、もうちょっと違う立ち回りがあったかもね」

 

 

天使の瞳を見据えながら反らさない、何てかっこいいものじゃない。

体が震えないように、

目を反らさないように、

嘘を吐かないように、

必死なだけ。

そんなあたしを見て天使は楽しそうに笑った。

 


「やっぱり君は変わってるね、ドミ。初めて会った時のままだ」

「失礼な、二才児と一緒にしないでくれる?」

 

 

天使が持つのは不信感、ではない。

多分、あたしを試しているのだろう。

気分が良い訳もなく少し苛立ちながら紅茶を飲む。

そんなあたしににっこりと神々しいスマイルをこちらに向けた。

 

 

「二才の頃って普通覚えてないよね?」

「〜〜〜っ!てーんーしー!!」

 

 

この軽口を呪えばいいのか天使の首を締めればいいのか分からないが、天使の首は怖くて絞められないので自分の額をテーブルに打ち付ける羽目になった。

 

 

「ルーファ、あんまりドミをいじめるなよ」

「ごめんごめん、ちょっと意地悪しちゃったね」

 


おでこ赤くなってる、と天使の指が額を撫でた。

昔なら赤面するシチュエーションだが今はお前のせいだろうがよ、と毒しか吐けない。

 

 

「本当に、ドミが心配だったんだ」

 

 

金色狼があたしの手をそっと握った。

 

 

「ずっと、ぼくを心配してくれていたろう?しばらく顔も見せれなかったし、心配してるんじゃないかと思ったんだ」

「・・・・ホントよ、半年も来ないし」

 

 

ぎゅっとリィの手を握り返す。

大の大人をも叩きのめす小さな手のひら。

あたしたちを守る為に自分を犠牲にしてしまう手のひらだ。

強者が弱者を守るのは当然だときっと彼は言う。

黒い太陽曰く、それは彼の趣味で、生きざまだ。

 

 

「あたしが、・・・・余計なこと・・・・したせいでひどいことになってたらどうしようかとおもった」

 

 

それでも、あたしは心配するし、知ってることは知ってるし、動けることは動きたい。

それにはやっぱり多大な不安が付きまとう。

 

でもそれは、あたしが何も知らずに普通に生きていた時と同じ、何も特別なことじゃない。

当然の不安なんだ。

 

 

「心配してくれてありがとう、ドミ」

 

 

リィはずっとあたしの手を握っていて、天使がゆっくりあたしの頭を撫でる。

その手があまりに暖かく柔からで、

 

 

あたしはそっと目を閉じた。


「聞かないの?」
  
「ドミこそ」

「・・・・いい。リィがここにいるからそれで」

「ぼくも。ドミと約束したから、いい」

 

 

 

 

いぢわるされてます。おねいちゃん。
いや〜あんなことあったばっかりだから天使も思うところありそうですね。(他人事っ!?)
姉弟仲良くって素敵。
おねいちゃんに恋愛感情がない分、「最果て〜」夢主よりうまくいってます。
まあ、帰れる可能性の有無で感じが変わるなぁっと何かしみじみしてしまいました(笑)

top   next

inserted by FC2 system