某天才美少女魔道士のコスチュームを身に纏った私を見て、
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ラスボス、へそ氏が共に最高のぽかん顔を晒していたので今回の念は過去最強な出来になり、
私には立派なトラウマが刻まれた。
トリップ×3
「
さん!無事ですか?」
「心の傷以外はネ」
一時のテンションに身を任せ人前で念を使ったことを最高に後悔しながら、へそさんを抱えて天井を爆破させて出てきたところで神子と遭遇した。
「ん!大丈夫ですね!」
「・・・・望美ちゃん逞しくなったヨネ」
扱いが雑になったともいうのか。
とにかくそれ以降の神子姫は何か凄かった。
具体的に言えば、
「 さん!大技行きましょう!」
「え?ドラスレ!?町吹き飛ぶヨ!!」
「空に固定しときます!景時さん、捕縛お願いします!」
「行くよ、 ちゃん!」
「ええええ〜!どうなっても知りませんヨ!」
みたいなゲームでいえば戦闘シーンのスキットみたいのをしつつ言われるままにドラスレを放つ事になった。
それでもギリギリ生きてたラスボスに対してその後も八葉たちがガンガン大技使っていくのを見て流石に同情を禁じ得ない。
神子からは既に何回倒したと思ってんだゴラァみたいな威圧感を感じる。
やっぱり遥かなる時空を飛び回ると人は強くなるらしい。
ざっぱざっぱと雑魚を片手でさばく自分も人の事は言えないのだが。
「現代へ逃げる!?」
それでも向こうへ逃げるのは変わらないらしい。
みんなで時空を渡り懐かしき時代に降り立つ。
そこまずでした事といえば速攻みんなから離れ念を解く事だ。
遥時の世界の日本だと言えども、現代でコスプレしながら街を練り歩く趣味も度胸もない。
大丈夫、ラスボス瀕死だから。
すでに体力ゲージ真っ赤だから。
「おのれ、おのれ、・・・・!!」
呪詛を吐きながらこちらを睨み付けるラスボス。
「このままでは、済まさんぞ!必ず、必ず!!」
実にラスボスに相応しい言葉と共に消滅していくラスボス。
待てよ、迷宮編への布石なのか?これ。
それはともかく、
「勝った・・・・!!」
「終わった、ネ」
長い戦いが幕を降ろした。
私でもそこそこ長かったのだから彼女にとっては相当の時間をかけたであろう、この戦。
そういえば借りたままの逆鱗を返さなければ、と振り返った瞬間だった。
「 ちゃんっ!!」
へそさんの切羽詰まった声が飛んだ。
敵の気配はない。
それならば何が?
「これから、なんです。 さん」
振り返った先には厳しい顔した神子。
ざわりと揺れる空気。
息を飲む仲間の声。
「 ちゃんっ!体、が!」
先程より近付いたへそさんがやはり悲鳴のような声で告げた、 その現象。
「っ、・・・・・・・・あー、」
体がと言われ思わず見たのは右手。
淡く輝きながらゆっくりと消えようとする指先。
「ぁぁ、」
口から零れた言葉は思ったより空気を多く含んでいて声にならなかった。
「・・・・っ、」
ぐーぱーぐーぱー、
右手を握って開いてを二度ほど繰り返し、
一度ぎゅっと両目を力一杯つぶって目を見開き、
顔を上げた。
「皆さん、お別れみたいデス」
ぐーぱーしていた右手は後頭部をかくために使う。
見開いた目はみんなを忘れないように。
ぐっと上げだ口角は笑顔に見えていたらいい。
「元々、そーゆー体質なんですヨ」
いつもは瞬きひとつで跳んでいるんだから、いつもよりいい方だ。
胸元が熱いから逆鱗の力が働いているんだろう。
おかげでちゃんと別れられる。
「違う世界に行くんです。」
ちゃんとラスボスも倒したし、みんな生きてるし、大団円だし、ナイスタイミングってなもんだ。
そうだ、何の問題もない。
いつもより良いぐらいだ。
「皆さん、お元気で!」
なのに、なんで私は今こんなに吐きそうなんだろう?
もうダメだ。 顔とか表情とか言葉とかいろいろ限界だ。
もういっそ、一気に跳ばしてくれたら、
そこで、誰にも知られずにいられたのに、
「駄目だ!!」
目頭が熱くてもう限界だと俯いた時だった。
大きな手に肩を引かれた。
ぶつかった暖かく大きな何か。
力一杯締め付けられて潰れた胸が痛い。
「駄目だ!そんなの、一緒に、帰ろうって、そう!約束したじゃないか!!」
あの時、格子越しだった温もりが直に届く。
大きな彼がすがるように、
なくさないように、
私のちっぽけな体を抱き締める。
「 ちゃん、行くな!行かないでくれ!」
ぱたぱた、と雫の落ちる音がする。
どくどく、と激しい心の音がする。
「かげとき、さん」
どちらの音だろう。
もう混ざってしまって、どちらの音かも分からない。
「 ちゃん!」
泣いたって、
叫んだって、
縛り付けたって、
「景時さん、」
光も、
透けていく体も、
胸の熱さも止まらない。
「あのさ、」
もう原型が分からない右手を伸ばす。
頬を流れる涙を拭いたかったけれど、
もう感触も分からない。
「私、幸せでしたヨ?」
「じゃあ、これからは?」
だからもういいのだ、と告げようとした時に涼やかな神子の声が響いた。
「ねぇ、 さん。これからも幸せでいるのに必要な事はなんですか?」
「・・・・のぞみ、ちゃん?」
曲がらない、真っ直ぐに立つ彼女の姿。
本来なら一番動揺して泣いていてもおかしくない彼女が、ぎゅっと口を引き結びしっかりとこちらを見ていた。
「わたし、だから、ここまで来たんです」
いつか見た、夜空の下の彼女。
強く、美しく、優しく、強欲な彼女の瞳。
ああ、だからか。
「 、ちゃん・・・・?」
ゆっくりと景時さんの胸の中で身動ぎをし体を離した。
不安顔で体は離したけれど肩は抱いたままの彼。
随分信用のない事だ。
いや、一度全て諦めた奴が言っても仕方がないのか。
「だから、これをくれたの?」
感触がない両手がそっと白龍の逆鱗に触れる。
熱く、眩しい光があふれでている。
幾度も時空をを渡りもう幸せになれるはずの少女がもう一度跳んだ、私を残す道。
「理解が早い。流石、二回目、ですね?」
涙を堪えた彼女が悪戯っぽく微笑んだ。
いつかの私の台詞。
それがあまりにおかしくて、笑ったら涙が零れた。
へそさんの腕に頭をぶつける。
「でも、これ、我儘じゃないんですかネ?今まで、ぽんぽんと勝手に跳ばされてそれでもまー何とか生きてきたんですケド、運命とか、カミサマのミココロとかだったら大変じゃあないですかネ、まーカミサマって白龍もそーなんですケド、それにまーなんてゆーか、ちょっとズルですよねーそんなネ、突然ネ、」
くだらない思ってもないような事が口から零れる。
よくもまあこんなに喋るものだと呆れる。
こんなことを言いながらもう使えない腕はへそさんをつかんで離さないというのに。
彼の傍から離れるつもりなんてないくせに。
「 ちゃん、」
ぐずぐずと子どものようにぐずる私に目を合わせる為、膝をついた景時さんが頬に手を添えた。
「一緒に、生きてくれるかい?」
「っっっっっっ、こっちの、台詞ですヨ!!」
自棄っぱちの可愛くない私の言葉の後に、
目の眩む光の渦と、
私を守る大きな力強い腕と、
それから、
ーーー叶えるよ。それが、貴女の望みならーーー
この世界のカミサマの声が聞こえた気がした
書き上げたのは一体いつなんだってゆー作品ですみません。
五月には書いたよって言ってたのに!
お待たせしました!最果て上げた次の日なので胸焼け注意です(笑)
ちなみに、神子姫目線でゲーム的に言えば親密度を上げて心の関(出会いのシーン、ガールズトーク、デート作戦、月夜の邂逅など)を開けてって感じですかね。
そんなに難しい攻略キャラじゃないですけど、完全に大団円狙いの終盤にしか出てこないのでやる気があるかないかが問題です(笑)
さて、迷宮編も書いてみたいですが、とりあえず次で完結です。