外で上がる閧の声。
目の前のラスボス。
後ろのへそさん。
私の中の経験が叫ぶ。
逃げちまえ!
トリップ×3
「源氏を裏切るつもりなの?景時」
「俺は、」
言いよどむへそ氏を後ろで感じながら脱出路を探る。
外で上がった閧の声は間違いなく神子様ご一行だ。
探り慣れた、それこそ探らずとも分かる神々オーラが漏れている。
この牢屋生活の数日で何がどうなかったは知らないが、最終決戦が始まったと思って間違いないだろう。
何ルートなのかは分からないが誰かとくっついている様子がないので大団円狙いなのかもしれない。
となればここでラスボス対峙せずとも皆と合流しフルボッコした方が安全である。
へそさんかっさらって外へ出るには目の前のラスボス様の後ろの扉を出るしかない。
後はどっかに穴でも開けるか。
地下じゃないので崩れる心配もないし、例え崩れたとしても私もラスボスも大してダメージはない。
これだとラスボスと同位置にいるようで嫌だ。
へそさんはお姫様抱っこでもして差し上げます。
「頼朝様にも、政子様にも感謝しております。」
じりじりと下がりながらへそさん近付く。
本当に念で天才美少女魔道士とかになっておくと乱戦は楽なのだが、派手に光る一分間をラスボスが見逃してくれるとは思えない。
影分身で撹乱させるのは常套か。
「でも、俺は八葉です」
印を結ぼうと指を立てた瞬間、チクリと胸が痛んだ。
戦闘に集中力しなきゃいけないのに、ふらりと揺れる心を叱咤する。
そんな事、分かってた以上に常識じゃないか。
みんな白龍の神子の八葉で、彼女を守るのが彼らの仕事だ。
もしかしたら、
それ以上でも以下でもないかもしれないし、
それ以上でとってもそれ以上かもしれないし、
そんな事は私には分からないし、関係ない。
揺らぐな、負けるな。
私の背負うべき現実は目の前にしかないのだから。
「こんな俺を支えてくれた仲間を、信じてくれた彼女を、裏切るわけにはいきません」
途端、ぐいっと肩を引かれた。
それに殺意はなく後ろにいるのはへそさん意外におらず、思わずリアクションが遅れそのまま硬く暖かな何かぶつかった。
「ぇ、」
「大事な人ぐらい、この手で守れる男でいたいんです」
思考が真っ白のまま、腰に腕が巻き付き、右から長銃が現れ神を狙う。
息が詰まって呼吸が困難だ。
それは決して腰にある腕が苦しいのでなくて、
「そう、わたしに歯向かうのね」
「貴女がこのままあること、源氏の為とは思えません」
「そう・・・・そうなの」
私を置いてきぼりにしながら話は進む。
可愛い姿の北条政子は次第に凄味のある笑みに変わっていく。
「私の力を知ってなお、歯向かおうというのね、景時・・・・?」
「っ!俺は、俺は、」
神様からくるプレッシャーに息を飲むへそさん。
私は知らずその腰の手に片手を添えた。
「・・・・ ちゃん、」
「私、約束しましたよね」
いつかの約束。
月を見ながら、
幻術の桜を見ながら、
貴方の知らないところでも、
いつの時も私のした約束は、
「いつでもあんたの味方ですヨ。だから、」
いつだって貴方の為のもの。
「神様なんて、フルボッコですよ!」
私は強いですよ。
貴方が隣にいるならなおさら、です。
神様相手だってなんだって、あんたとならば楽勝です。
ニヤリと笑うといつもの可愛い呆気にとられた顔の後、戦場には似合わない満面の笑みが咲いた。
「一緒に戦ってくれるかい? ちゃん」
「勿論!」
二人でバックステップで飛び退くと戦闘体制に入る。
「美しい恋模様ね。たった二人でわたしに敵うと思うの?」
「どうでしょうね?ゲームじゃ大体主戦力は二人でしたよ!」
誰にも分からないゲーム事情を口走りつつ、へそさんを横目で見る。
長銃を構え印を切る姿は大変素晴らしい。
「一分、じゃない、鼓動六十回分、持たせれますか?」
「何か、策が?」
怯まず怯えず前を見る姿は、未来を望む姿そのもの。
「やってみなきゃ分からないですけどね」
「俺だけなら何とかなると思うけど、」
私の少ない言葉で現状を把握するその能力。
流石、ピカ一の軍師様。
「充分です」
相手は神様で、
こっちはたった二人の非力な人間。
この油断が、最大の好機。
「Open The World to Gate!」
なんてたって、この絶妙のパターンとタイミング。
変身中は攻撃しちゃいけない事になってると思いませんか?
そろそろ大詰め!
変身シーンや口上シーンは攻撃しないのが人情ですよね(笑)