ヤバイ時はこれまでの人生に数多くあった。
忍だって、狩人だって、現代だって、
変わらない。
「やっちまったもん仕方ない」
そんな言葉ではくくれない後悔だってある。
つまずいて、
立ち止まって、
泣いて、
喚いて、
うずくまって、
ふて寝したって、
なんだって、
結局のところ、
それでもまた立ち上がる。
「やってみなきゃわかんない」
そうやって思えたら、
やっと、
私は私を好きになる。
だから、
ねぇ、
12
「おお、」
思わず感嘆の声をあげる。
何でかって?
絵にかいたような牢屋に案内されたからだ。
岩壁の高い天井に高いところに灯り取りの小さな窓。
とてもじゃないが手は届かないし、頭も入らない大きさだ。
四畳ぐらいのスペースに、古びた藁みたいのが積んである。
まさかこれが布団だなんて言わないよな?と思いつつこの時代ではこんなもんかとスルー。
そして目の前には立派な木造の格子。
こちらも勿論頭も入らないし、素手で壊すのは無理だと思わせる頑丈さだ。
極めつけには両手に木で出来た四角いあれ。
よく時代劇とかで見かける手錠が付いてる。
え?望美ちゃんの時こんなじゃなかったよね?
確か剣取り上げられてて終わりだったよね?
何この厳重さ?
めちゃくちゃ用心されてる。
これもそれも、ヘソさんがしっかりとご主人の髭に報告をしていたお陰だろう。
立派に働いているようで何よりである。
「さっさっと入れ!」
源氏の兵士AだかCだかに強引に牢に放り込まれる。
ここは体勢を崩して膝を着くフラグと心得た。
「っ、」
流石に、きゃっとか小さな悲鳴は自重した。
そこまでやると自分の腹筋が耐えられない。
自滅しそうだ。
そんな乱暴な扱いを受けても健気に牢に入る私に心打たれたのか、小さく息を飲んだ音を耳で拾う。
「・・・・景時さん、」
地面に倒れたまま振り返ると、沈痛な面持ちのへそさんと目が合う。
だからどうしてそんなにダメな顔してるのあなたは。
つけこまれますよ。間違いなく私に。
「っ、行くぞ、」
冷酷な顔を装って私の声に答えず踵を返すヘソ氏。
うん、その前の動揺が答えみたいなもんでしたけどね。
「さてと、」
誰もいなくなった牢屋で一人、冷たく硬い地面に腰を降ろした。
まずやる事といったら、いつぞやと同じ。
小さく、小さく、
細かく、細かく、
結界と幻術を織り混ぜていく。
相手は神様。
見つかっても小賢しいと思われる程度に。
身の保身故に、仲間を裏切った女だと思われるように。
恋しさ故に、道を違えた馬鹿な女だと思われるように。
私は目を閉じ、ゆっくりとチャクラを練っていく。
相手は神様だ。
不完全な、人間を依り代にしていても、
相手は神様。
どっかのルートでは時を止めて攻撃するなんていうチート技まで披露してくれた。
戦ってみないと分からないが流石にそれは勝てる気がしない。
私の忍術と念がどこまで通用するか。
と、思っていたのだ。
「んっとに、神子って怖いわあ」
小さく呟きながら押さえるのはパーカーの胸元。
その下。
そう、ここに、白龍の逆鱗が、あるのだ。
ホントやめてほしい。
これを、ラスボスは狙っていたのではなかったか?
これには、膨大な力があるのではなかったか?
受け取り断固拒否!と首を振る私に神子は相変わらずの神々笑顔だった。
「私はもう、使いませんから」
その言いきりが怖い。
だって、それってあれでしょ?
選手交替って事でしょ?
知ってますよ、これがあれば時を止めるチート技が効かないって。
それってつまり、私がそのチート技を受ける可能性があるということだ。
しかも、時空をかける神子のお墨付き。
「さいてーだ」
お願いだから、早く来てね望美ちゃん。
そんな事を呟きながらチャクラを練り続けたのだった。
「・・・・・・・・ ちゃん、」
何度かの夜が明けて、
途中何度か来た神様という名のラスボスを必死にやり過ごし(彼女は幻術に話しかけ、神子に話していた彼女の恋愛の素敵さを説いて去っていった。いろんな意味で死ぬかと思った)
食料もそれなりに与えられ、寒さに凍えることもなく、意外にも快適に過ごした何日目かの朝。
「景時さん」
彼は現れた。
「えと、・・・・だいじょーぶですか?」
大分ダークサイドに堕ちてますね。
牢屋に人間に言われるってどんだけなの。
「君は、いつもそうだ、っ、」
がつっ!
大きな音をたてて木の格子が軋んだ。
ぶつけられた両の拳が震え、赤みを帯びてゆく。
「・・・・君なら、君なら、こんなところすぐにでも出られるはずだ!そうだろう!?」
まあ、そうなんですけどね。
何だかんだいって忍で狩人の私は木造建築物なんて素手でも破壊できる。
手錠なんて何の意味もない。
岩壁だって穴が開けれるし、灯り取りの窓まで登るのだって楽勝だ。
しみじみ、世界ビックリ人間ショーな自分にがっかりです。
「わざわざ捕まったのに、出てくわけないじゃないデショ?」
手錠をしたままの手をへそさんの両手にかざし、医療忍術を施す。
「どうして、君は、そうやって、いつも、いつも、」
うわ言のように繰り返しながら膝を付くへそさんにやれやれとため息をついた。
「本当に分かりませんか?」
「分からないよ・・・・・・・・君も、望美ちゃんも、九郎も、朔も、」
「源氏ピカ一の軍師殿も形無しですなあ」
ニヒルに笑って見せると、つられて駄目そうに笑った。
「俺はそんな風に言われる人間じゃないよ。弱くて、怖がりで、武芸もからっきしで、陰陽師としても半端者で、」
膝をついたまま語りだすへそさんに視線を合わせ、ちょこんとしゃがむ。
手錠が邪魔だが、へそさんの目の前でぶち壊すのは空気もぶち壊す事になるので自重する。
なので体操座りの出来損ないみたいな体勢で彼の続きを聞く。
「それを誤魔化す為に、こんな武器まで作って、怖くないように作戦を立てるなんて言って、卑怯者もいいところさ、おまけに、君を、」
不意に伸ばされた手に、思った以上の強さで体を引き寄せられる。
「こんなところに閉じ込めて、っ、」
あと少しで、触れ合えるのに。
感じるのは古びた木の冷たさと、
唯一背中に触れた大きな両の手の震えだけ。
「・・・・質問に、お答えしましょうか、」
目の前で震える、どうしようもない人に。
目の前で迷う、どうしようもなく愛しい人に。
「みんな、あんたが、弱くて情けなくて、泣き虫な、あんたがさ、」
いつもみんなを気にして、
気にするあまりに空回って、
戦うのが嫌いで、
洗濯が好きで、お香を作ったり、和歌を読んだり、
本当は、妹も、親友も、神子も、仲間も、
みんなの事が好きなのに、
恐怖に縛られて、不安に支配されて、手も足もでない。
そんな、馬鹿で、駄目で、弱虫なあんたがさ、
「景時さん、」
涙に滲んだ翡翠の中に歪んだ私が映る。
しょうがないなと笑いながら、
不自由な両手でその頬をそっとなぞった。
「好きなんですヨ」
だから、
ねぇ、
貴方も自分を好きになってあげてくださいよ。
掠めるように触れた唇は、驚くほどしょっぱくて、
泣き過ぎです、なんて言って、一緒に泣いた。
少し、気が済みました(笑)
ちゅうされる人が多い中、自分からいきました。
流石です。一応最強系主人公。