忍の世界でも、

狩人の世界でも、

生きていく事に必死だった。

生きて、生きて、生きて、

生き抜いて、

帰れるなんて思ってはいないけれど、

せめて、死なないように。

そんなことを思って十九年。

今だってここは戦乱の世。

命のやり取りに代わりはない。

惚れた腫れたなんて不謹慎な、



「いや、ここは元々ネオロマンスの世界だ」




10




さん、ちょっと稽古つけてくれませんか?」

「ほえ?」



それは突然の夜のお誘いだった。

鎌倉の梶原邸で突き刺すような、切り裂くような神子姫の強い瞳。

揺るがないであろう意志。



「・・・・剣術は使えませんヨ?」

「構いません」



間違いなく何かある。

ゲーム的にいえば イベントな展開なコレ。

絆の関とか開いちゃうのかコレ。



「お願いします、 さん」



連れてこられたのは近くの割りと大きな神社。

名前は忘れたが平家んとこの死にたがりが出没した場所な気がする。

シリアスな空気のまま剣を構える望美ちゃん。

その姿は隙がなく、相当の修羅場をくぐった者の姿。

この子も普通の女子高生からかなり外れてしまった事だろう。



「お手柔らかに〜」



人の事は言えないが。

いつものクナイをくるりと手の中で回す。



「行きます!」



舞うように、散るように、

ひらりひらりと、はらりはらりと、

剣舞を見せる彼女だが、その一撃はなかなかに重い。



「おお、」



クナイで受け止め思わず驚嘆の声を上げる。

これは、



「・・・・分かりますか?」

「分かります、ねぇ!」



華奢に見えるその体のどこにその力があるのか、と思えるほどの重さ、スピード、確実に急所を狙う的確さ。

思った以上の実力者だ。



「普段、大変だったデショ!」

「いえ、もう、慣れました!」



実力を隠しながら、平凡な、少しだけ剣が使える神子として在ること。

適当に誰かとハッピーエンドを迎えて、幸せに暮らせばいいのに、

それをしない、強さ、優しさ、欲深さ、



「っ!!」

「はぁ!!」



お互いの呼吸と金属音だけが響く。

月明かりの中で、舞う彼女はとても美しく、哀しい。



カン!



どれだけ続けていただろう。

ひとつ、大きく剣が鳴り彼女の手から離れ、地に落ちた。



「・・・・大丈夫?望美ちゃん」

「・・・・は、い、・・・・」



彼女の呼吸が調うのを待ち汗をぬぐった。

まさかここまで彼女ができるとは思わなかった。

もちろん殺す気がなかったというのもあるが、ここまで汗をかいたのも久しぶりである。

見上げると満月に近づく月が冴え冴えと辺りを照らす。

風が吹き、木々を揺らした。



さん、」



視線を戻せば、変わらず凛として立つ憐れで美しい神子の姿。



「景時さんを、お願いします」

「・・・・・・・・・・・・」



言いたいことは色々あった。

いやいやいや、君の八葉ですよ!

本人の意思はどうしたら!?

私の手に余るへたれっぷりなんですけど!!

どうみても現在ダークサイドに堕ちかけてますけど!!

なんて誤魔化して、



「・・・・望美ちゃん、」



正直に言えば、想いを告げる気はなかった。

勝手に守ると決めたけど、それはそれ。

裏から家族救出して弱味を無くすとか、

愚痴聞くとか、

私に出来ることなんて精々そんなものだと思ってた。

いや、それは今も変わらない。

でも、



「ねぇ、 さん、」



いつまたいなくなるか分からない世界で、

いつまた強制的に別れさせられる世界の旅路で、

こんなにいつか来る別離に恐怖を感じるのは初めてだった。



「景時さんは、確かに私の八葉です」



惚れた腫れたをやってこなかったツケはでかい。

神子を守るための八葉は、神子の、望美ちゃんの八葉だ。

それはもう、逆ハーレムの如くみんな彼女が好きなのだ。 

そんなところに、どうして私が入れるものか。

先日の彼の行動だって、決して恋愛のそれじゃない。

守ってくれる、優しくしてくれる私への情に過ぎない。



「でも、景時さんを信じてください」



洗濯を干しながら鼻歌を歌うその背中を、

肩に触れた震えた大きな手のひらを、

苦悩しうちひしがれ、沈黙をたたえる彼の横顔を、

隣を歩き目が合うだけで、はにかんで頬をかくその瞳を、



「それは、」



何とも言いづらくて頭をかく。

首にかかった額宛が汗でしっとりして気持ち悪い。



「神子姫様からの、ご依頼で?」

「お友だちとしての、お願いです」



そう笑った彼女は月明かりを受けて、

たいそう綺麗で、



「君が八葉タラシの神子姫様だと忘れてました」



自棄くそになって、そう告げる他なかった。

きっと彼女の耳には、しゅうううん!とかいって関が開く音がしたに違いない。




相変わらず、場所や時間がふわっとしてます!

許して!

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