「はじめまして、西崎由宇です!よろしくお願いします」



転校生がやってきました。








記憶喪失だというその転校生はキラキラと輝く笑顔であっという間にクラスに馴染んでいます。

間違いなく私より友だちが多いです。

一癖も二癖もある悪ガキ大迷惑な三人組が由宇姉ちゃん、由宇姉ちゃんうるさいので彼女の周りはとても上手くいっているのでしょう。

なのに何故でしょう。

そんな彼女がぼんやりと公園のベンチに座っています。

その横を丁度通りかかった、今ここ状態の私です。

何故、公園に入ってしまったのか。

だって近道なんです、ここ。

しかし、彼女は全く私に気づいていません。

素知らぬ顔をして通りすぎるのもいいでしょう。

第一、同じクラスというだけで喋ったことがないので恐らく彼女は私を知りません。

通り過ぎても何の問題もありません。

しかし、何故でしょう。

私は彼女を見つめるのを止めないでいます。

どこか遠くを見ている彼女はこの世の者ではない儚さを持っています。

そう、

一度死んで傀儡の体を持つ、記憶のない彼女に私は勝手な感情を持っているのです。

それは親近感や罪悪感や劣等感や親愛の情だったりする何か。

まあ端的に言ってしまえば、似たような境遇を一方的に知っているが故に、こんな時どんな顔したらいいか分からないの的な気持ちに陥っているのです。



「にしざきさん・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」



奇跡的に苗字を覚えていたというのに全く反応を返さない転校生。

無視、ではなく聞こえていない。



「西崎さん?」

「・・・・・・・・・・・・」



これはアレだ。

完全に聞こえていないし、声をかけられたことも認識していない。

私が非常に嫌われていなければ、の話ですが。



「・・・・わっ!!!」

「きゃあ!!!」



久しぶりに大声を出して喉が痛いのを除けば、目論見は大変上手くいきました。

美少女は叫び声も美しいので素晴らしいと思います。



「え?え?え?」

「初めまして、西崎さん。クラスメートの椎名です。こんなところでどうしたんですか?」

「えっと、初めまして、あの、その、お買い物の途中で、えと、」



目を白黒させる美少女は大変可愛らしい。



「そうですか、私は図書館帰りです。奇遇ですね」

「・・・・そうですね!」



こう見えてテンパってるんです私。

どの辺が奇遇なんだ。

コミュニケーション能力が底辺なんですよ。

こんな阿呆なふりにもにこやかに笑う転校生さんは大変可愛らしい。



「・・・・どうですか?こちらの生活は?」

「楽しいです!みんな仲良くしてくれて!」



悩んだ結果、休日のお父さんみたいな話の振り方になりました。

その笑顔に先程見た陰りも、曇りもなく。



「・・・・そうですか。良かったです」



幸せになってほしい。

出来れば、このまま。



「私、西崎さんに会えて良かったです」



どんな顔をしたらいいのか分からなくても、

例えその別れが、胸を抉るものだとしても。

私は君に会えて良かった。



「・・・・わたしも!」



何も知らずに笑う彼女の顔はとても綺麗で儚く、



「由宇姉ちゃーーーん!!」

「あ、椎名の姉ちゃんもいるー!!!」

「何々?どうしたの?姉ちゃん友だちできた?」

「どうみても、今初めて話しましたって感バリバリだけど、姉さん友だち出来たの?」

「分かってて言ってる喧嘩なら買うわよ。特に裕介」



そんな空気はいつものごとく大変失礼な三人悪によって一気に壊されました。

]

通常運転で血の繋がった弟の性格の悪さったらありません。

そしてそのままズルズルその場に居るはめになり、



そして、



「こんにちは、お嬢さん」



彼女の日常を壊すものと出会うことになった。

顔面蒼白で逃げていく彼女。

それを見送る真っ黒な長髪長身の男。

蒼龍。

巷では龍さんとか、麗しのペイルブルーとか呼ばれているのかもしれないアラフィフ。

実際見ても尚思う。

若作りにも程がある。

どうみても二十歳そこそこにしか見えません。

それは外見だけの話で。

どっしりとした威圧感、それは二十歳の小僧には出ないものでしょう。



「ごらぁあ!!オッサン!!」



それに噛みつくてつし君たち三人悪。

分かってはいたけどむしろ感心します。

むしろうちの弟に関しては申し訳ない気分でいっぱいです。

ごめんなさいね、蒼龍さん。

こんなの序の口でこれから延々と面倒くさい弟に絡まれますが、運命だと思って諦めてください。



「オレたちは由宇姉ちゃんの味方だ!」



てつし君たちはかっこよく啖呵を切って帰って行きました。

私を残して。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



うぉい!!

いえ、帰るタイミングを失った私がいけないのでしょう。

それでもお姉ちゃんも連れていって欲しかったです。

金森君や西崎さんほど懐けとはいいませんが少しくらい気にしてくれたって。

思わずため息を吐くと、蒼龍さんがこちらを向きました。



「君は・・・・?」

「姉です。あの一番こまっしゃくれたのの」

「・・・・ああ、」



すぐ思い立ったらしい。

本当にごめんなさい。

貴方が大変なのはむしろこれからですよ、マジで。



「君も、反対するかい?」

「そう、ですね」



私もあまり素直にできてませんので、と言うと美しい顔で苦く微笑む蒼龍さん。



「あの子たち、甘く見ない方がいいですよ」



そんな可哀想な彼に思わず言葉が漏れる。



「細心の注意を払っても、何をするのか分からないのが神出鬼没の三人悪ですから」

「君は止めないのかい?お姉さんなんだろう?」

「私が止めて聞いた試しはないので」

「そうかな?」



この置いていかれている現状を見てみろ、と肩を竦めると苦笑が返ってきた。



「結構、大事にされてるんじゃないかい?」



そしてそっと手が頭に伸びる。



「?」



その手が届くその瞬間バチン!と鋭い音が響いた。

転がるビー玉と抉れた地面。

後ろを振り返ると厳しい顔をした三人悪が立っていた。



「姉ちゃんに触るなよ!オッサン!!」



次は当てる!とパチンコを振りかざすてつし君は大変男前で、



「姉ちゃん着いてきてなくてびっくりしたんだからな!」



手を引く涙目のリョーチン君は大変愛らしく、



「ぼーとしてないで、危機感何処に置いてきたの」



やれやれとため息を吐く弟は大変憎たらしい。



「ね?」



そうウインクをする蒼龍さんはお茶目で、



「・・・・・・・・です、かね?」



ずらかるぞ!と連れていかれる私に蒼龍さんはにこやかに手を降っていた。






「姉さん、いくら美形でも変質者と話すとか。そのぼやぼやした性格本当に何とかしなよ」

「ぼやぼやなんてしてないわよ」

「し・て・る!考え込むと何にも話し聞いてないだろう」

「危ない奴とかいっぱいいるんだぜ!姉ちゃん女なんだから気を付けろよ!!」

「オレたち、本当に心配したんだよ!」

「・・・・・・・・・・はーい」



これは金森君扱いでも、西崎さん扱いでもない。

椎名の姉ちゃん、扱い、らしい。










わーい、蒼龍さんだ〜と妖怪アパートを読むたびに思います。

夕士君、落ち着いてその人なんかかっこいいこと言ってるけど、

小学生にメタメタにされてんだぜ?ソーチャンとか呼ばれてんだぜ?それがしかも隣町にいるんだぜ?

みたいな気持ちでいっぱいになるので(笑)そのうち遭遇させてみたいと思います。

もちろん、三人悪が妖怪アパートに行くと収集がつきませんのでお姉ちゃんだけ。

全力で、そのうち(笑)

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