「あ、・・・・・・・・椎名、さん?」

「・・・・・・・・こんばんは、てつしくんのお兄さん」




夜中、思い立ってふらりとコンビニに出かけると意外な人物に会いました。

いや、意外じゃないのか。むしろ王道。

名前を忘れた訳じゃありません。

てつしくんたちと我が弟が竜也兄、竜也兄と言うので名前はばっちり覚えてる。

だだ、苗字がどうしても出てこなかったんです。

教室でも数回しか会ったことのないクラスメイトに名前で呼び掛けるのは流石にためらわれ、こんなことに。

普段より顔色の良さそうな彼は器用に眉をあげシニカルに笑って見せた。




「ふ、じゃあ、椎名さんは裕介のお姉さん、だな」

「です、ね」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」




すみません、年頃の男女って何を喋ったらいいんでしょう?

中学に入学して二年もたとうというのに未だ友だちはてつしくんとリョーチンくんの二人なコミュニケーション能力の底辺な人間はどうしたらこの空気を壊せるんでしょう?




「いつも、てつしが悪いな」

「あ、いえ」




あ、駄目だ。会話が終わってしまった。

人より多めに記憶があるのに同級生に気を使わせてはいかんでしょう、私。




「てつしくんたちには、いつも感謝してるんです。裕介を連れ出してくれますから」

「そう、か?」

「はい」




会話が続かない。

いや、無理して会話する必要はないでしょう。

さっさと帰るが勝ちな気がしてきました。

それでも、




「・・・・かなもり、くんは、どこへ行くんですか?」




苗字も思い出した事ですし、




「ああ、豪さんの所へ行こうかと、」




低血圧で滅多に稼働していないこの麗しい番長さんと夜の散歩を楽しむのもありな気がしてきました。




「ご迷惑でなければご一緒してもいいですか?」

「俺は構わないけど、」

「ミッタンさんには一度ご挨拶を、と思っていたところなんです」

「こんな時間に?」

「思い立ったら吉日、です」




明るい月が夜道を照らします。

ふふふと笑うと金森くんはまた少し眉を上げました。




「確かに変わってるな、椎名さん」

「金森くんに言われるとは心外です」




私より背の高い金森くんを見上げると月明かりと相まって大変お美しい。

てつしくんのお兄さんだとは思えません。

悪口ではありません。

てつしくんは男前で野郎臭い感じですが、金森くんは完全にビューティー路線です。

どちらかというと裕介タイプです。




「・・・・?どうかした?」

「すみません、綺麗だなと見てました。」




素敵な顔面偏差値です、と真顔で呟くと金森くんは顔を反らして月を見上げていました。

月もですが、綺麗なのはあなたです。




「あ〜、っと、それと豪さんにはミッタンって呼ばない方がいいと思う」

「ご忠告ありがとうございます」

「・・・・本当に変わってるな、椎名さん」

「中学生らしくすることは諦めたのでオッケーです」




私もですが、金森くんも大概だと思う、なんてことを言いながらゆっくり夜の道を歩いていきました。

その後、




「おま、女子どもがこんな時間に彷徨いてんじゃねーよ!」




という柄の悪いお巡りさんに、




「いつもうちの裕介がお世話になってます。ミッタンさん」




と完全なる確信犯でにこやかに挨拶をし、




「ミッタンって言うなぁぁぁあああ!!」




と深夜にも関わらずお決まりの台詞をいただいたので大変満足致しました。




「流石、裕介の姉だけあるな」

「裕介と一緒にしないでくださいな」




あれはうちのベストオブ変人ですから。







続いちゃいました。
名前変換はしない予定です。
え?名前変換小説サイトなのに?←今更

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