「君が地獄の薬屋なの?君があの根性極悪のツリ目鬼野郎に毒作った子?ちょっとあの毒どうなってるの?ボク死にそうだったんだよ!?神獣なのに!本当に君が作ったの?ってゆーか君みたいな可愛い子がどうしてあの鬼灯なんかに使われてるの?弱味でも握られてる?ひっどい鬼だなーボクが何とかしてしてあげるよ?でも本当に可愛いよねーあれ?獄卒でもないし亡者でもないんだ?何で人の身で地獄なんかにいるのー?極楽のボクのとこにおいでよー♪極楽を見せてあげるよ・・・・?」




給食のおばさんみたいな格好の、補佐官殿によく似たパーツの全く似てない森羅万象ご存知の神獣が突撃してきました。







シスターは地獄の世界でも生きていた?2







地獄いいところだなーと思っていた時もありました。

一人でいても誰にも文句言われないし、動物は可愛いし、特に面倒事にも巻き込まれない。

何百年単位での引きこもり生活は私の生活に多大な影響をおよぼしている。

しかし戦国時代やかぶき町と違い、一人でもきちんとご飯は食べるし眠る。

今から思うと相当危険だったな私。

万事屋さんたちや大家さんには感謝してもしきれない。

間違っても地獄で会わないように是非長生きしてもらいたい。

どう贔屓目に見ても天国に行くタイプの人間じゃないからね、全員。

そんな事をつらつらと考えながら、補佐官殿から貰った金魚草を薬として使えないかと試行錯誤している時だった。




「ね、 ちゃん?」




彼がやってきたのは。

まるで補佐官殿と出会った時のような口が挟めないトークの末、にっこりと笑うとすりっと指の腹で頬を撫でられた。




「っ・・・・!!!!」




次いで襲った悪寒。




「あ、れ?」




それを認識した瞬間、私は脱兎のごとく逃げ出したのだった。











「・・・・ さん。何です、突然」




正直に言おう。

油断していた。

事件も事故もなく、獄卒や亡者にとってはどうか知らないが、地獄の中枢、補佐官殿の隣に居を構える私としては気を付けるのは精々補佐官殿の睡眠管理と閻魔さんの体重管理ぐらいで、敵もない。

文句のある獄卒ぐらい居たかも知れないが、今更些細な陰口など意識の端にも引っ掛からない。

生きるか死ぬか、

守るか死なすか、

そんな世界からみて、今までの生活から比較して、平和過ぎたのだ。

蛇のお姉さんや小鬼くんたち、座敷わらしに動物たちまでもがみんなが私より年上で、

補佐官殿を筆頭に、そんなに力まず、楽にしたらどうです?と構ってくれる。

約千年ぶりのその心地よさについ力が抜けすぎた。




「・・・・ さん?」




今だってそうだ。

人に助けを求めるなんて、久しぶり過ぎて動揺する。

補佐官殿の腰にしがみついたまま、自分の無意識の行動に更に動揺する。

しかし、しかしだ。

完全に油断して円も張らず知らない気配が近付いても何の対応もしない状態で会えるモノではなかった。

アレは無理だ。

まるで毛が逆立つ獣のように、一瞬で閉心術をかけ、チャクラと念で自分を覆い、瞬身で逃げてきた。

まさに全力だ。




「どうしたの、 ちゃん?」

「っ!!」




自分の行動を振り返っていると閻魔さんに顔を覗き込まれて体を震わせた。

いや、だから、どうしてここまで無防備でいられるんだ、私。




「・・・・何ビビらせてるんですか、」

「えええええ!!!?いつも確かにちょっとくらい亡者に怯えて欲しいとは思ってたけど、今!?ここで!? ちゃんに!!?」

「でかいんですよ、何もかも。ダイエットしてください。それか削げ」

「ちょ!やめてよう、怖い言葉が混ざってるよう!」




相変わらずの主従漫才を終えてから、黒衣の鬼がぽんと頭に手をおいた。




「しかし、本当にどうしたんです?何かありましたか?」

「あ、・・・・の、」

「はい」




思わず言い淀むと続きを促すように頭を撫でられた。





「・・・・へ、ん、なひと、が・・・・」

「え!!?地獄に変質者っ!!?」

「こんな幼女に変態行為をした輩がいると。まさか」

「あれ〜?ここにいたんだ♪ ちゃ〜ん!」

「貴様か白豚」

「うぎゃああ!!!」




声を聞いた瞬間、ぎくんっと体が強張ったのが分かった。

補佐官殿にも伝わったらしく神獣を金棒でフルスイングしていた。




「嫌がる幼女に手を出すなんて最低ですね。地獄に落ちてください白豚野郎」

「ちょ!誤解!誤解!ボク何にもしてないよ!?確かに光源氏計画とか面白そうだな〜って思ったけど!」

「語るに堕ちたな。死ね淫獣」




本気でミンチにしそうな勢いの補佐官殿の腰に力を入れ二度目のフルスイングを止める。




「だいじょうぶ、です」

「・・・・ さん?」

「めが、こわくて、」




森羅万象全てを見透かす目を持つ神獣。

人の身で会うには不可が大きい。

何もかも知られるというのは私のアイデンティティーに反する。

例え神獣とはいえ、私は私を探られるのを許さない。

半端なく苛つき、体を補佐官殿の後ろに隠す。

力を抑える気がないなら見るな。

プライバシーの侵害だ。




「ふむ」




大きな壁の役割をしている補佐官殿が突然頷き、私と神獣を交互に見る。




「・・・・?」




裾を握ったまま大きな補佐官殿を見上げ小首を傾げる。

途端に前を向いてくわっと大声で叫ばれた。




「なるほど!これが萌!!!」

「お前も大概じゃないか!ムッツリ鬼!!!」

「ちょ、 ちゃん!!鬼灯くんもヤバイからこっちおいで!!!」




その後、閻魔さんがイケメン二人に幼女の取り扱いについてお説教していたらしいが、蛇のお姉さんに救助されていたので詳しくは知らない。








ちゃんは亡者でも獄卒でもない、普通の人間の女の子なんだから、きちんと扱わなきゃ駄目だよ!二人とも!!」

「彼女、私より怪力ですけど、」

「あの子、普通とは言わないんじゃないかなぁ?」

「口答えしないの!」

「「はい、すみません」」




  


後日。




ちゃ〜ん!この前はごめんね〜!」




懲りずにやってきた神獣様には、




「そのめで、みるの、やめてください」

「ぎゃあ!!ちょ!目突くのやめて!!!」




たくさんある弱点を物理的に突かせていただきました。

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