「ああ、なるほど、あれですか?貴女、今流行りの異世界トリップの犠牲者ですか、ご苦労様です。あー、なるほどなるほど、今まで結構飛んでますねートータル千年、ですか。まあ、今回はここで仕事でもして過ごしてください。で?何が出来るんですか?あー、はいはい獄卒に行ってもらってもいいですけど、その見た目ですからね。ああ、前回薬師でしたか、ここで薬師でもやってください。あの白豚の代わりになってくだると大変有難いですね。いえ、こちらの話です。なるほど、毒も使えるんですか。いいですね、後で是非作って欲しいものがありまして。それではよろしくお願いします。
さん」
「・・・・・・・・あー、は、い?」
マシンガントークでもないのに一切言葉を挟ませず喋り続けたその鬼は、妙に印象的なへの字口をしていた。
シスターは地獄の世界でも生きていた?
「 ー!来たよーー!」
「いや、来たよじゃねぇだろ。お邪魔します、だろ!?」
「・・・・その前に返事もらってから部屋に入るという常識をこの犬に教えてやってくれよ、誰か」
店の常連さんの声に顔をあげる。
犬、猿、雉。
そう桃太郎の従者の彼らだ。
相変わらずふと気付いたら今回は地獄にいた。
目の前にいわゆる閻魔様がいて一瞬きちんと死んだのかと戸惑った。
死にたいのか生きたいのか分からない自分が残念だが、補佐官殿曰く千年近く生きているらしいので出来ればそろそろ死んでおきたい。
そこは人として譲れないラインだと思う。
しかしどうやらこれも死んだのではなく、補佐官殿曰く今流行りの異世界トリップらしい。
誰だ流行らせた奴。
怒らないから出てこい。
今なら細切れで済ます。
まあそんなこんなで始まった地獄ライフ。
相変わらず安定の幼児で、それでも特に問題なく薬屋稼業が始まった。
色んな世界に行ったが私が異世界トリップを繰り返していると知られたのは初めてだ。
口に出した事もないし、出す必要もなかったが、知られているというのは存外居心地が良い。
幼児が一人でいても何も咎められない。
と思いきや、よくよく考えればここは地獄。
ここまであからさまに喋る動物や昔話の登場人物もいるのだ。
そして大体の人々は紀元前から生きているので私よりも年上。
とても感慨深い。
「いらっしゃい」
「鬼灯様のお使いなんだ!誉めて誉めて!!」
「いや、お使いってなんだよ!仕事だろ!?」
「・・・・犬だもん。こいつ完全に犬だもんな」
ずいぶん人懐っこい犬と激しいツッコミを繰り出す雉と完全に遠い目をする猿。
いいトリオだ。
三匹とも丁寧に撫でてから木の実や乾燥果物を与える。
もう肉はいらないだろう君たち。
ビタミン類もとりたまえ。
「・・・・・・・・・・・・これ、ぜんぶ、ほおずきさんが、つかうの?」
獣たちのもふもふを思う存分堪能してからシロくんに渡された紙をみる。
本気でお使いらしく注文が書かれた紙。
すごい量の滋養強壮系と眠気覚まし。
一体何日徹夜する気なんだ。
「あー、今、すっごい忙しいんすよ。そんで大分みんなキてますね」
「その中でも一番のヤバイの鬼灯様なんだ!」
「怖い顔がより怖いっす。」
「ふむ」
死ぬことはないんですけど、と少し不安げに話す猿くんの頭を一撫でする。
何でみんなこんなに頑張り屋さんなんだろう。
すくっと立ち上がる。
「 さん?」
「 ?どこ行くんだ?」
「なんとかするわ。いろいろ」
「いま、ここで、きょうせいてきにやすむか、じはつてきにやすむか、えらんで」
「は?何を言ってるんです?そんな暇はないんですよ。どっかの糞閻魔が仕事を溜めやがったせいで、」
「ほおずきさん、ひとりがいなくて、つぶれるじごくは、つぶれてしまえ」
「・・・・なるほど」
「ちょ!鬼灯くん!!? ちゃん何言ってるのぉぉぉおおお!!!」
「えんまさんは、たべすぎ。やせて」
「ぐほ・・・・・・・・抉るね、 ちゃん」
「因みに、強制的に休むを選ぶとどうなるんです?」
「けいどうみゃくを、きゅっと」
「休んで!!頼むから休んで!!鬼灯君!!!何か ちゃん怖い!!!」
「・・・・・・・・それで、一日休んでより膨らんだ仕事に追われろと?」
「そこはわたしが、」
「 さんが?」
「えんまさんをびしばし」
「のった!!」
「なんと!!」
地獄にドSが増えたと後日閻魔さんが泣いていたらしい。
いえ、至極真っ当な扱いだと思っております。