奥深い山の中。
この町に、この国に、この世界に、
こんな深い山があったのかと思うほど、
暗く、寒く、寂しい場所。
打ち捨てられた山小屋の中に、
一人の男がうずくまっていた。
「・・・・ぐっ・・・・くそっ・・・・」
戦うように、守るように、嘆くように、
小さく体を丸める男。
薄汚れた銀髪が、体の隙間からのぞく。
そう、
「みーつけた」
「・・・・・・・・ 、?」
迷子の銀髪侍である。
シスターはかぶき町の世界も生きていた?4
「
さん!!」
「 !!」
事の始めは子どもたちの突撃だった。
正しく突撃。
かなりの勢いで引戸が開けられたので戸が外れた気がする。
古い上に立て付けが悪いのだ。
直せるけど放置。
何故って?
その方が人が来ないからだ。
ガチな引きこもりの私に飛びかかるようにやってきた二人は何だかとても切羽詰まっている。
はて?
小首を傾げる。
「 さん!銀さん、来てませんか!!?」
「 !銀ちゃん、いなくなっちゃったアル!!」
こてん。
反対側に首を傾げる。
全く意味が分からない。
「銀さんが帰ってこないんです!!」
それってよくある事では?
大体飲み歩いてるだろうに、あのマダオは。
また小首を傾げる。
「飲み行ってるんじゃないネ!!もう二週間も帰って来ないアル!!」
あの人、前、一年ぶりの銀さんだよーって言いながら金髪侍に色々乗っ取られてたけど。
面倒だったから関わらなかったけど。
「だからいつもの事じゃないアル!!これ!!こんなメモがあったネ!!」
メモにはナノマシン、からの、腹が痛い。
「・・・・・・・・・・・・ばかだ」
「知ってます!!だから さん!!」
「 、お願いネ!!」
眼鏡少年と兎の子が力強く私を見つめた。
「「あの馬鹿、見つけて(ヨ)(下さい)!!」」
てな訳である。
「な、んで、ここに・・・・・・・・ぐぅっ!!」
いつも異常にボロボロの銀髪侍改め馬鹿が身を捩る。
何故なんて。
人探しなんて、円で検索かければ一発だ。
ここ数百年使ってなかったが忘れてなくて良かった。
さくさくと見つけだし、薄汚れて転がっている毛玉発見である。
さて、それよりも、である。
「きんきゅうしゅじゅつをはじめます」
「な・・・・に?」
これは酷い。
ギリギリだ。
ナノマシンだか何だか知らないが、体を乗っ取られかけている。
よく耐えているな、と思う反面、何故うちに来ない、とも思う。
手早く体を大の字にして転がし、札で床に縛る。
小汚ない小屋だが本人も同じくらい小汚ないので許してもらおう。
「 、!何、して・・・・!!」
「だまって」
これは久しぶりに本気を出す必要がある。
白眼の家系じゃないのであのお嬢さんのようにはいかないが、私には今まで数百年の経験値がある。
全力で眼に力を巡らし、銀髪侍の上に跨がる。
「ちょ、! 、・・・・銀さん、今そんなハードなこと、出来る元気ねー、から、いや、お誘いは、うれしーけど、・・・・こんど、な、今度」
「ばかか」
「止めて、その怖い眼で言われると、銀さんマジ、凹んじゃう、から・・・・!」
虫の標本状態の男を無視し、鳩尾に手を置くと、びくり、と震えた。
本当に弱味を見せれない御仁ですこと。
喋ることも苦しいはずなのに、必死に言葉を吐く。
私を傷付けず、出ていかせる為なのか、いや、いつもの通りのマダオに過ぎない。
こんなマダオを待っている子たちがいると言うのに全く。
「おしおき」
「は?」
みんなにお仕置きされたらいい。
残された者の辛さを存分に聞くがいい。
それが、君が今まで育ててきた絆の深さなのだから。
「 ・・・・?」
脂汗と冷汗が混ざって顎先まで伝う。
鳩尾に置いた手を支えながら銀髪侍の全身に私のチャクラを巡らす。
拒絶反応が出ないように最新の注意をはらう。
「・・・・ぐ!」
「がまん、して」
「・・・・こ、むすめぇ、何のつもりだぁ・・・・」
出てきた。
ナノマシンの本体。
男の体を借りて口を開く。
眼がギラギラと光り、こちらを食い千切ろうと牙をむく。
「・・・・じゃ、ま」
「・・・・邪魔をするな!!小娘!!白夜叉の体は私の物だ!!・・・・やめ、ろ! !!逃げろ!!」
一人の人間の中に二つの人格があるようだ。
よし、銀髪侍へのお仕置きは、とっておき恐怖の心霊体験読み聞かせ百選に決まりだ。
手間かけさせやがって。
「 !!・・・・小娘ぇ!!」
じりじりとチャクラ量を増やす。
コントロールをミスし右手の爪が全部弾けた。
駄目だ、体が弱っている。
そろそろ自堕落に過ごすのも終わりにしなければ。
だって、
「 、やめろ!!血が!!」
助けたいものも助けれなくて何のための数百年か。
ぐんっと圧を上げる。
「やめろ!!やめろぉぉおお!!小娘!!何を!何をする気だ!!」
「した、かむ」
歯ぁ食いしばれってやつだ。
「・・・・・・・・っ!!!」
体内深くに根付いた核。
ナノマシン、その中心部。
その末端におけるまで。
「でていけ」
歯を食い縛る。
唇が切れる。
髪がざわりと広がる。
そして、
「ぎゃあああああああああ!!!!!!!!」
どんんんん!!!!
断末魔と衝撃音。
銀髪侍の体、その下。
床が抉れ、螺旋状に衝撃波の後が残る。
「・・・・うぐ!!」
限界だ。
ドサッと倒れたのが患者の上。
「ごめん」
胸板から見上げれば、疲労は色濃くあるものの、無事な男の姿。
「ぶじ・・・・?」
「おい! 大丈夫なのか!!」
「わたしより」
「俺は、平気だ・・・・!」
「ん」
よくよく観察する。
本当はきちんと診察したいのだが、もう体が動かない。
「みみからも、めからも、はなも、くちも、しゅっけつ、なし。たぶんだいじょうぶ」
「え゛そんな可能性があったの?ちょ、さなさん?」
「あった。けど」
「え?え?銀さんマジで頭パーンってなるとこだったの!!?マジでか!!」
「そもそも、ひとりでなんとかしようとするのが、まちがい」
「いや、銀さんだって、銀さんなりにね?」
「まだおのくせに」
「ちょ、 さんー!!!いつの間にそんな言葉使い覚えたの!!おとーさんは許しませんよ!!」
馬鹿なことを言い合いながら、起き上がる事を諦め腹の上で丸くなる。
私ぐらい軽々と支えてくれよおとーさん。
「ちょ、 さん?そんなとこでごそごそされると流石に我慢強い銀さんの銀さんもびっくりしちゃうんたけど」
「おやすみ」
「おいぃぃぃいいい!!嘘だろ!!?せめてこの両手両足何とかしてから寝ろよ!!おい、 !!」
本気で精も根も尽き果てたのだ。
私が寝落ちというか気絶すれば札も剥がれるはずだ。
ぎゃーぎゃー喚く声をBGMに目を閉じる。
「かえろう、ぎんときくん」
みんなが待ってる。
大きく息を吐きながら、久しぶりの大仕事を終えたのだった。
「・・・・小悪魔か、お前は」
そんな呟きが、夢の端にかかって消えた。
その後、新八君と神楽ちゃんにぼっこぼこにされ、私には心霊体験を読み聞かされ、
心身ともにしっかりとお仕置きされた銀時君は、多分幸せだと思う。