王宮の庭には白い薔薇がこれでもかと咲き誇り、その香りを誇示している。
白薔薇のアーチ、その下で。




「お前との婚約を破棄し、わたしは、 嬢との婚約を宣言する!!!」

「いや、待って」

「何で、何でですの!殿下!!何でこんなどこの馬の骨とも知らぬ女なんかを!!」

「いや、本当に待って」




とんだ茶番が行われていた。










シスターは王道の世界にも生きていた?










目の前の事態に目が遠くなる。
どこぞの伯爵令嬢が泣き崩れ、隣の金髪碧眼な王子が私を守るように立ち、その他のカラフルな頭の男達が各種様々に令嬢の非道さを暴いていく。
なにこれ怖い。
頭が悪くなりそうな舌戦を聞き流し、そもそもの原因を思った。










・インバース?それが貴女のお名前ね?」




この世界で私を拾ったのは孤児院のシスターだった。
案の定幼女である私を気味悪がらず受け入れ、他の子どもたちと同じように接してくれる彼女は流石シスター、人間が出来ている。
人間、千年過ぎると小手先が上手くなる、訳もなく、大概の事は何とかなるので取り繕うことを止めた全く可愛いげのない私に親身になってくれる。
そんな健気なシスターに恩を仇で返すわけにもいかず、適度に子どもの面倒を見、せっせと薬を作って子どもたちの健康状態向上に努めていた。
そんなこんなで十五になったある日。




が、学園に!?まあ!何て光栄なことでしょう!!」




王立の魔法学園に呼び出されました。
作っていた薬が王宮薬師の目に止まりその才能をぜひ、とかなったらしい。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お断りしま、」

「何て素晴らしいの!! が学園に入れるだなんて!!」

「いや、あの、」

「きっとこれで貴女の未来が開ける!王宮薬師にだってなれるのよ!!」

「いや、別に、」

「貴女の才能を、このまま埋もれさせる事が心苦しくて、そうなったどんなにいいかと、神様にお願いしたのよ!!」

「凄いや! !!学園に行くんだろ!!」

「すごいよ、 ねぇちゃん!!」

ねぇちゃんー!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、はい」




何が辛いってシスターも子どもたちも悪意がないことだ。
完全に善意で、この面倒事を喜んでいる。
追い出したいわけじゃないのも分かる。
そもそも成人になる来年には近所に店を出すつもりだったのだ。
サナには才能があるのにと呟いていたシスターに、今さら学園とかすんごい面倒だから行きません、と舌の上まで出かけた言葉を仕方なく飲み込み、学園の制服に袖を通したのだった。










「君、なかなかやるじゃないか!」




その後、学園での生活はといえば、良くもなく悪くもなく。




「俺が女に負けた、だと・・・・!」




いや、悪いの方が大分多い。




「君ですね?孤児からこの学園に転入してきた天才とのは」




所謂、お貴族学園らしいこの魔法学園とやらで孤児は目立つ。




「ボク、君の事気に入っちゃった!」




そして相変わらず面倒故にいろいろ取り繕わない私はとっても目立つ。




「俺の、女になれよ・・・・?」




毎日男女問わず勝手に何かと喋って絡んでくる。




「貴女、何様のつもりなの!?穢らわしい生まれのくせに!!殿下の隣なんて図々しいのよ!!」




帰りたい。




「触らないで、この人は綺麗だよ。君たちの方が、ずっと醜い」




久しぶりに引きこもりたい。




「ずっと一緒にいてくれるね?」




百年単位で。











パンッ!!




と、まあいろいろあった一年だったがようやくこの世界がどこか分かった。




「っ! ?」




大きくひとつ柏手を打った私にそこにいた王子、令嬢、カラフル頭たちの視線が集まった。
目の前にいた王子が振り返り首を傾げる。




「どうしたんだい?大丈夫、心配いらないよ。わたしが守ってあげるから」

「いえ、結構」




守ってあげるとか久しぶりに聞いた。
初めてかもしれない。
意外と嬉しくないものだ。
いや、人とシチュエーションによるのかもしれないが。




?一体?」




すたすたとカラフル頭たちに押さえつけられた令嬢の元へ向かい、カラフルたちをぽいっとし、彼女を立たせる。




「な、なに、を!」

「本当に彼がいいの?」

「え?」




気丈にも震えを隠し睨み付けてきた令嬢の頭をよしよしと撫でる。
土を払い、傷を治す。
ぽかんとした少女にもう一度訊ねた。




「君にこんな仕打ちをする男の事が、本当に好きなの?」

「っ、わ、わたくしは伯爵家の生まれなのよ!?幼い頃から王妃になる教育を、」

「うん、それで?本当に好きなの?」




小首を傾げると、戦慄いていた唇が痛いほど噛み締められていた。




「・・・・っ、」




目に溜まった雫が頬を伝う。




「・・・・・・・・だって、それじゃあ!何のために毎日毎日、苦しい思いをして勉強したのか分からないじゃない!!!あんなに何が分かるのよ!!突然出てきて、それで!!」

「うん。ごめんね?でもそれにしても、」




チラリと後ろでぽかんとしたままのアホ面イケメン集団を見る。




「いたいけな少女を数人がかりで押さえ付けて乱暴してってのは、少なくとも国のトップに立つであろう人間がすることじゃないね」




きっぱりと言い放てば皆目を見開く。
何とお目出度い頭だこと。




「何を!!?」

!!一体どうしたっていうんだ!?わたしたちは君を守るために、」

「誰が頼んだ」

「っ!!!」




辺り全体を冷気が包んだ。
殺気も分からぬお子様にはきちんと具体的に教えてあげるがよろしかろ。
ここは、婚約破棄の世界。
ネット小説で流行った乙女ゲームやら、悪役令嬢やらの世界なのだろう。
どこのゲームかどこの小説か全く分からないが、これが所謂王道なのだ。
この世界でヒロインとして生きていく?
真っ平御免である。
そもそも、そもそも、だ。
二本の指で空間を切り裂く。
片手を突っ込めば、今にも逃げ出す途中の生ゴミ野郎の端をつかんで引きずり出した。
この世界に落ちてから一度も顔を見なかった阿呆だが、まさかこんなところで遊び呆けていたとは思わなかった。




「さあ、ゼロス」




誰かの悲鳴が響く中、




「説明してくれるかしら?」




片足を持たれたおかっぱ魔族が逆さ吊りになって空中に姿を現した。




「お、お久しぶりですねぇ、 さん?あれ?いや、その、ちょっとしたお茶目っていうか、思ったよりコロコロ転がるもんですから楽しくって、つい♪」




冷や汗を足らしながら可愛らしく口元に人差し指を当てて笑う生ゴミ魔族。




「つい、下級魔族みたいな真似したのよね?負の気集めに楽しくなっちゃったのよね?」




ゆっくりと口元が上がる。




「そう、そうなんですよ! さんもいないなーって、いやぁ、修道院ってほら、居心地悪いじゃないですかぁ!」




だからって、許すと思ったら大間違いだ。




「これはお仕置きよねぇ、ゼロス?」




久しぶりに浮かべた死の微笑はかの有名な獣神官ゼロスを消滅の危機まで追い詰め、
私をこの世界の魔王としての地位を確立させた、らしい。















これだけ、原作のない作品です。

ネット小説で流行った婚約破棄系の作品です。

ざまぁ系とか言われそうなものの系統のつもりです。

一応(笑)

とりあえず、これで溜まった物は出せた、はず!

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