優雅な土曜日の早朝。

どごしゃぁぁぁあああ




「家壊してんじゃねぇ!!」




どごぉぉぉぉおおおお

朝っぱらごっつい音が響くのはZ市の常である。











シスターはZ市の世界でも生きていた?











「どうしたんでしょう?」




朝食を作っていたらしい割烹着姿のおかっぱが顎に人差し指を置いて小首を傾げる。
うざい。
あざといとかじゃない。
うざい。
寝起きで機嫌が悪いのは自覚をしているが八つ当たりも大人げないのでその指をこきゃっと曲げるにとどめる。
大袈裟に悶絶している黒いトンガリコーンを跨ぎ(蹴り転がさなかったところに自分の忍耐が伺える)ベランダからひょいと外を見る。




「サイタマ先生!!ここは私が!!」

「つくしになった気分だ・・・・」




つるりと光る頭と黄色と赤のヒーロースーツ。
その隣にはメカっぽい青年が一人。
それよりサイタマ君のセンスってどうなんだろう?
いつも無難な大型量販店のマネキンが着てそうな服しか着てない私が言うのもなんだけど。




「・・・・おはようサイタマ君。いつの間に先生に?」

「よう 、おはよう!」




あ、肉片飛んだ。




「わりぃな!起こしちまったか?」

「うん。まあ」

「いきなり壁壊されてよう!!」

「直しといたげる」

「お!サンキュー!!」




そんな世間話をしながらサイタマ君はぐちゃ!ぐちゃ!と怪人を倒していく。
何でこの世界の怪人ってみんな飛び散るんだろう?




「道路の清掃は任せたわ」

「えー?僕ですかー?」

「美味しく負の気頂いてるんだからただ飯食わずに働きなさいよ」




随分逞しくなった下っぱ魔族を今度は遠慮なく蹴り転がし、杖を構えてさくっと直す。
久しぶりに魔法を使った気がするのは普段から生活魔法を好んで使っていたためだろう。
戦うなら素手の方が速いし最近は知らない間にウキウキと獣神官が家事をしているので出番がなかった。
生きてるだろうか、あの育ちすぎた蝙蝠は。
とりあえずフラグは全部へし折ってやったけど。
あいつびっくりするぐらい不幸顔だもんなあ。




「先生!!あの女性は一体!?」

「ん?となりの とゼロスだ」

「今、壁を・・・・!!それに死体がどこにも・・・・!!」




大昔の同僚に思いをはせるとメカ君が何か言っている。




「おーい! ー!帰ってきたら久しぶりにアレやろうぜー!」




了解の意を込めて手を振り布団に潜り込んだ。
休みの日は寝る。
これがOLっぽくて好きだ。




「サイタマさん、今日特売ですけど覚えてますかねぇ」




とうとう頭に三角巾をつけて完全な主婦化した真っ黒魔族の呟きはサイタマ君には届かなかったようである。













「よーっす! !やろうぜ!!」

「お邪魔いたします。これつまらないものですが、」




夕方、少年のような笑顔のサイタマ君が家にやってきた。
ちょっとぼろっちくなったメカ君も一緒である。 




「おや、ご親切にありがとうございます♪」




中身はゼリーらしい。
胡散臭い笑顔で箱を受けとる割烹着姿の男を一生懸命見るメカ君。
おそらく目から必死でデータを引き出して観察しているんだろうが、ゼロスも不審だが君も結構変だよ?




「なあなあ!早くやろうぜ!!」




そんなおかしな状況には見向きもせず、サイタマ君はにこにこ顔でテーブルを叩く。
子どもか。
いや、我々からしたら子どもどころか子孫だけれど。




「あの、一体何をなさるんですか?」

「「腕相撲」」




きょとんとしたというか機能停止状態のメカ君を放置して、準備を進める。
まずはお互いのフィールドのみに強固な結界を張る。
最初に張らずにやったら部屋が滅茶苦茶になってがっかりしたので全力の結界を張り、意地はゼロスに任せる。
一応、机、床、壁、と部屋全体も強化させ、メカ君を見る。




「メカ君、ちょっと危ないから割烹着野郎の後ろにいなさいね」

「メカ・・・・ジェノスです。自己紹介が遅れました。サイタマ先生の一番弟子です!!」

「・・・・フレッシュね」

「・・・・フレッシュですねぇ」

「自分にないものを感じるあたりやっぱり年なんでしょうね」

「そりゃそうですよ、 さん一体何歳だと思ってるん」




どかばきぐしゃ




「デリカシーがないわ」

「おーい、まだかー?」




焦げてピクピクしてるゼロスを物ともせず催促をするサイタマ君も随分慣れたものだ。
黒目と白目が逆な瞳を点にさせているメカ君改めジェノス君を放置し、座蒲団に腰を下ろす。
利き腕を出し、肘を置き、手を握る。




「ではいつも通り。どちからの手がテーブルにつくか、物が壊れた時点で終了です。今日はギャラリーもいますから加減してくださいよ?」

「え!?傷は!!?」




あっさりと復活したゼロスに混乱するジェノス君。
そうか、一応あの子常識人か。




「いきます」




ゼロスの手が握られた拳に置かれる。
目の前にいるのは獣だ。
今朝の呑気なつくし姿はどこへやら、ギラギラと目を光らせている。




「レディー」




多分、人の事は言えないのだろうけど。




「ゴー!!!」




互いの力がぶつかり合い、部屋の中を衝撃波が荒れ狂う。
全力を出せる相手は私にとっても大変貴重なのである。














一勝負後。




さん!どうやったらその強さを手に入れることができるんですか!!?」

「忍者やってハンターやって魔法学校通って、海賊やって死神やって戦国武将に追い回されて万事屋やって地獄ぐらいまでいったら大体出来上がると思うけど」

「は?」

さん、戦闘民族との戦いとか巨人の駆逐とかは入れなくていいんですか?」

「あー、あの辺も入れときましょうか。マフィアとか普通の人間との戦闘は略していいわよね?」

「っ!!馬鹿にしてるんですか!?冗談は」

「してないわ」

「っ!!?」

「私には私の人生があるように、あなたにはあなたの方法があるわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

「よっしゃ!! !!もう一勝負!!」

「ダメですよ!そろそろご飯の時間です」

「「えー」」

「結構散らかってしまいましたからね。お部屋片付けてください」

「「はーい」」

「サイタマ先生! 先生!座っていてください!オレがやりますから!」

「・・・・この子、人を駄目にするタイプね。サイタマ君にぴったりよ」

「サナだってゼロスにいろいろやらせてるじゃねぇか」

「適材適所よ」

さんのご飯、独創的ですからねぇ」

「基本丸薬で栄養取ってたものね、懐かしいわ」

「さ、食べましょうか!今日はすき焼きですよ〜!」




こうして、Z市の一日が終わる。



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