今日も一日よく働いた。
パソコンとにらめっこをした目を軽くほぐし肩を回す。
肩こりなんてものを久しぶりに感じそうだ。
夕闇の中、気だるい体をゆっくりと伸ばしならがら家路につくとそこには、




「おかえりなさい さん!ご飯にします?お風呂にします?それとも、ぼ」

「気持ち悪いわ」




安定のおかっぱ魔族が待っていた。










シスターはZ市でも生きていた?










「どこで覚えてきたの?その気持ち悪いの」




やれやれとため息をつきながら玄関をくぐる。
1DKの我が家は二人で住むには手狭だが、魔族を一人と数えないので意外と快適だ。
荷物を置くとテーブルの上に置かれた鍋と野菜が目に入る。
今日はお鍋らしい。




「今日、主婦の皆さんに教えてもらったんです♪やるのは恥ずかしいけど意外と喜んでくれるわよって」




フリフリの白いエプロンを身にまとい、どうでした?と意味ありげに聞いてくる糸目のおかっぱにでこぴんを打ち込む。




「嫌がらせとは良い度胸だわ」

「・・・・づぎあいがながいもので・・・・」




一回のでこぴんではノックアウトしなくなったという面でおいても確かに月日の長さを感じる。
愛しの妹たちと離れてこれまた何年か、何十年か、はたまた何百年か。
とにかく前回居た世界でいい加減野宿に飽きた。
山に飽きた。
森に飽きた。
巨人を駆逐して駆逐して駆逐してを延々繰り返す生活でいい加減人間らしい生活が恋しくなった。
煮ても焼いても食べられないデカブツを狩るのは面白くも何ともない。
あまりに飽きて、巨人殲滅か、世界一周かどっちがいいかと相談していた矢先に新しい世界の土を踏んだ。
いや、土ではない。
アスファルト。
住宅街。
遠くに見えるのは高層ビル。
空には宇宙船は飛んでいないし、着物を着ている人もいない。
正真正銘の現代、だった。
そこで思ったことはひとつ。




「そうだ、OLになろう」

「おーえる、ですか?」




相変わらずオマケのおかっぱ魔族はついてきているが、何百年ぶりかの定職につくのがいいと思うのだ。
パソコンいじったりお茶汲んだり課長とか係長とか部長とかお局様がいる会社たるものに就職する会社員、オフィスレディになるのだ。
そんなこんなで、ちょちょいっと戸籍を弄り、ちょいっと学歴やら履歴やら何やらを偽造し、安いアパートに居を構えた。
何でもいいが、




「何で主夫ポジションなのよ」

「これがなかなか楽しいんですよ♪夫婦の軋轢、嫁姑問題、ママ友戦争勃発とかで」

「何それ現代怖い」




かといってここが本当の正真正銘の現代という訳ではやはりない。
故郷に似ているが、違う。
そう、ここは、




「おーい、 ーいるかー?」




世界最強の男がいる世界。




「いらっしゃい、サイタマ君」

「お鍋出来てますよ〜」
 
「悪いなぁ。でも助かる。ゼロスの飯旨いしな」




つるりと光る頭を書きながら何とも理解に苦しむセンスのパーカーを着こなす趣味でヒーローをしている青年。




「いいのよ。コレと二人っきりでお鍋なんて寒気しかしないわ」

「酷いです さん!僕こんなに尽くしてるのに!僕の愛は伝わってないんですね!!」

「気持ち悪いわ」

「・・・・お前ら仲良いのか?悪いのか?」




肩を竦めて腰を下ろす。




「さあ?考えたこともないわ」

「ええ、長い付き合いですから」




僕は気に入ってますけどね、この生活。
そう小さくこぼす腐れ縁を無視し、サイタマ君を促す。




「さ、食べましょ」

「おう、いただきます」




気に入ってない訳じゃないけどね。
小さく呟いた言の葉は地獄耳のおかっぱ魔族には届いたらしい。
軽く目を開き、そして魔族にあるまじき、にっこりと穏やかな笑みを浮かべた。




「ふごっっ!!!」




その顔に苛立ち、顔面に裏拳を叩き込む。


「流石に拳はまだダメみたいね」




のたうち回るゼロスを鼻で蔑み箸をすすめる。
白菜美味しい。
人間的な生活万歳。




「バイオレンスな夫婦だなぁ」

「夫婦じゃないわ、サイタマ君」

「わ、悪ぃ」




バキッと折れた箸に顔を引きつらせたヒーローに忠告を入れ、人間的な生活を楽しむのだった。

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