ここはどこだろうと思って早十数年。
ようやく謎が解けた。




「前回の薬物での事件もある事で、急遽君たちの安全確保の為お呼びした ・インバース先生だ。保険医をしていただく」




強面のツンツン頭の男性と黄色の、何だろう、触手的な物体。




「ぬふふ、その助手のゼロス先生とお二人が保健室に常駐してくださいます。何かあれば訪ねるといいでしょう!その代わりサボりは認めませんよ!!」




喋るんだ、触手。







シスターは暗殺の世界でも生きていた?







落ちた場所はイタリアだった。
そう分かったのは何ヵ月かたってからだったが。
生ゴミ魔族を引き連れてもう何度目かのトリップだが、今回は少しいつもと違っていた。




『あー、そーゆーことかー』

先生はイタリア語も堪能ですからねぇ、第二外国語を選択したい人は彼女に習うのもいいでしょう」




思わず死ぬ気で覚えた外国語をこぼすと目敏い触手がニヤニヤと笑った。
そう、言葉が通じなかったのだ。
幼児で見たこともなく言葉も通じない場所にぽいと放り出され、流石にパニックになったかといえばそうでもなく。
ただ言葉を覚えるって違う回路がいるから滅茶苦茶苦労した、というだけのエピソードであることが若干の寂しさを感じなくもない。




「私は保険医ですので、専門外です」

「ってゆーかさぁ、」




何でそんな面倒な事しなきゃなんねぇだよ触手野郎が、という思いを込めてお断りしてる最中に赤毛の男の子が声を上げた。




「何です?カルマ君」

「このセンセー本当に俺たちより年上なの?どうみても同い年か年下にしか見えないんだけど」




ふむ。
思わず自分を見下ろす。
白シャツに黒のパンツ。
その上に白衣。
とっても保険医っぽいではありませんか。




「確かに若く見えますが、この世界に来たのが十五年は前なので年上ですよ一応」

「いやだなぁ さん、ここにいる誰よりも年上の癖にそんなご謙遜を、」




ばきごきぐしゃ。




「えー、外国語は専門外ですが、私の話すイタリア語でよければお聞かせする事はできます」

「・・・・・・・・あの、じゃあ、先生の専門って・・・・・・・・?」




隣で茶々を入れた生ゴミをすっきり片付けると、何だか髪を縛ったとても可愛い男の子が恐る恐る声を上げた。
専門。




「暗殺です」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「保険医なのにっっっっっっ!!!????」」」」」」」」」」」」」」」」」」




クラスに総ツッコミをいただいたが、まあそういう事だ。
イタリアのスラムに落っこちて、てっきり美味しい名前のマフィアとかいるのかなーと、何やらかんやらやっていたら凄腕の暗殺者扱いされ、あれよあれよと日本に呼ばれて今に至る。
感想としては、下手に近代的な世界に行くと戸籍とか生活面倒だなー、である。




「でも長く薬師もやってますので大丈夫ですよ?」

「それって暗殺にも使えますか!!?」




こてん、と小首を傾げると何名かが食いついてきたので教えてあげる事にする。
意欲のある子は好きです。




「あの、隣で若干焦げてぴくぴくしてるゼロス先生大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。殺しても死にませんので皆さん練習台にどうぞ」

「ちょっと さん!!!??」

「ね、復活も早いでしょう?」




おおおお、と歓声を上げる生徒たち。
遠い昔のアカデミーでイルカ先生もこんな気持ちだったのだろうか。
うん、担任という訳でもないのなら少しぐらい関わってもいいだろう。




「ところで、そこの触手さん」

「ぬふ!私の事は殺センセーと読んでください!!」




何しろここにはいい玩具があるのだし。




「その触手どうなってるのかちょっと調べさせてくださいな、触手先生」

「嫌です!!殺センセーって呼んでくれたら考えます!!」

「では勝手に頂きます」




クナイにいつも通りチャクラと念を込め、すぱんっといく。




「ぬふっ!!??」




それを紙一重で避ける触手。




「おおおー」

「凄いじゃないですか、 さんの一撃避けましたよ殺センセー♪」




思わず拍手してしまった。
初動を避けられたのは久しぶりだ。




「・・・・・・・・おい、」

「今の、見えたか・・・・?」

「いや、全く・・・・!」




生徒たちがざわっとしている。
それと同じぐらい私自身もざわっとしている。




「あー、 さーん?」

「んー?」

「障気、しまってください」




漏れてます、とゼロスにつつかれ苦笑する。
おっといけない、ガウリイ君の時みたいになるところだった。




「では外、行きましょう?殺センセー?」




うっとりと口の端を上げると目の前の丸い頭の色がパタパタと変わっていく。
だらだらと汗を流しながら引きつく触手。
実に面白い。




「い、い、い、い、嫌ですーーーーーーぅ!!!!!」




マッハの勢いで飛んでいく黄色の物体を笑顔で追う。




「ふふふ、待ってくださいよ。殺センセー?」

「ぬふーーーーーーーー!!!!来ないでくださーーーーーーーい!!!!!」













その後、殺センセーの弱点に、

先生に弱い。

と、書き加えられたらしい。




「ぬふー!! 先生やめてー!!」

「いいじゃないですか、私ちょっと運動不足なので付き合ってくださいよ」

「ゼロス先生でいいじゃないですかー!?」

「今、アレはいい感じに生徒の玩具になってますよ?」

「何ですとー!!??」

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