飛び散る汗、血、腕、臓物。
戦乱を駆けるこの足よ、
溢れ落ちそうになるモノを掴むこの腕よ、
決して、取り溢してなるものか。










シスターのその後。〜かぶき町編〜











「く・・・・そ、」




血を流し過ぎた。
目に入る血を拭い木刀を振る。
目の前の敵を蹴散らす。
ふらつく足に活を入れ走る。
あいつらは無事だろうか。
万事屋の仲間と、真撰組の連中の顔を思い出す。
自分よりずたぼろになっていることはないだろうとは思うが。




どくたー、すとっぷ。




そう笑った時、不意に彼女の声を思い出した。
拙くとつとつと喋り無表情なくせに、婆ぁに会うと犬が尻尾を振るような雰囲気を出す。
狂犬と呼ばれながら一時期万事屋であった少女。




「であった、てなんだよこのやろー」




自分の思考にケチを付けながら背後から迫る敵を殴り倒す。
突如姿を消したその少女は、何時だって今だって万事屋の一員なのだ。
そう、少女にはよく怒られたものだ。
ぼろぼろになるまで戦うと必ずと言っていいほど小言をもらい、最終的には縛り上げられ徹底的に治療される。
今のこの姿、見つかれば雷ものである。
それを思えば、今ここに彼女がいなくて良かったのかもしれない。
こんな姿を見られたら何を言われるか分かったものじゃない。




「またそんな戦い方して。もしかして縛られたいの?」




何て言われるに決まっている。
そしたら自分は決まって、




「いやいや銀さんは縛る方だから!縛られたって嬉しくもなんともないか、ら、」




そう返すのだ。
その言葉を耳にするのなら。




「・・・・は・・・・?」




目の前の敵が一斉に吹き飛ぶ。
目の前にたたずむのは、武士達でなく、女が一人。




「いや〜流石 さん、人間やめて長いですねぇ!」

「そこの三角推。尖ったら方から地面に突き刺さりたいの?」




いや、おかっぱの中肉中背の男が女の後ろにいた。
そいつがどうも浮いているように見えるのはどういう訳だ?




「いや〜いいところに落ちましたねぇ!」

「ここでそんな事言うのはあなたぐらいね」

「ちょっと僕、食事に行ってきますね♪」

「いいけど・・・・うちの子たちに手を出したり、うちの子の邪魔したり、まあともかくうちの子と関わったら、三角推、端からおろし金で削るから」

さん、脅し方、具体的になりましたよね・・・・」

「L様を参考にしてみたの」

「その成長嬉しくないです!!」




男は半泣きになって姿を消した。
天人、だよな?ゆうれ、とかじゃないよな?
そんな見も知らない男の正体はともかく、小首をかしげながらこちらを見るのは、まさか、本当に?




・・・・?」

「なぁに?」

「お前、何かでかくなってないか?」

「普通よ?」




前見た時は少女だった。
いや、本来の年齢から言えばお妙と同じぐらいだったはずだが、どうも神楽より小さく見えていた。
それが今や自分と同じか少し下。
立派な妙齢の女性だ。
伸びた四肢に丸みを帯びた胸や腰回り。




「いや、そんなん、どうだって、よくてだな、つまり、お前ずいぶん大人に、いや、」




男としてつい見てしまった部分に無駄な言い訳をする。




「今まで何やって、いや、どこに、」




矢継ぎ早に質問をしようとして息が詰まった。
そういえば自分は重傷患者で、今は一刻も争う事態ではなかったか。




「じゃあ、応急処置をしてみんなのところに行きましょうか?」




そんな自分を見て何て事ないように手を貸す彼女を見て、哀愁が胸を掠める。




「・・・・変わったな、 。お前」




前なら問答無用で布団に縛り付けられ転がされていたというのに。
決して縛られたい訳ではないが、あっさりとした大人の対応にポツリと呟く。




「そうかしら?」




変わったつもりはないんだけれど、と小首を傾げた はそしてゆっくりと花の咲くように顔を綻ばせた。




「変わったのだとしたら、それはみんなのお陰だわ。ぎんときくん」

「いや、 全然変わってないわ。何だその小悪魔感。パワーアップしてねぇか」




動かない腕で思わず顔をおおう。
今日一番の攻撃を食らった気がする。
彼女は変わらない。
大人でも、子どもでも、 は万事屋の一員に違いないのだ。







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