ここ、耐震的に物凄い問題ありますよね?
ていうか、こんな階段あり得ない。
油屋と私。
ほぼ直角で手摺もなく、しかも脆いなんていう階段を命からがら駆け降りた後、こっそり覗いたボイラー室。
「うお。ホラーだわ」
自在に動き回る六本の腕。
実際見ると想像以上に気持ち悪い。
いい人だって分かってたって恐い。
それでも、いつまでも隠れている訳にはいかない。
腹式呼吸で大きく息を吸う。
「あのっ!」
今までの十年で出したことがない大きな声を出そう。
「ハクに言われて来ました。ここで働かせて下さい!」
私は千尋だけど千尋じゃない。
私は私だ。
「・・・・人間の、女の子、じゃと?」
「両親が豚になって私も帰れません。ここで生きていく為に仕事をさせてください!」
近付けば近づくほど恐い。
それでも、逃げない。
だって、逃げ道はないんだから。
「上が騒がしいはずじゃ。どっかから入って来たんじゃ」
「ハクが、自分よりはあなたを頼れと」
質問に答えた事になるだろうか。
サングラスなのか、そのまま目なのか分からないが釜爺は眉をしかめて一本の手で顎を撫でた。
「またやっかいな事を・・・・」
「お願いします!働かせて下さい!」
見つめあうと言うよりは睨み付けるに近い。
暫く値踏みするように私を見たが、釜爺の答えは変わらなかった。
「手は足りとる」
「えぇ、確かに」
それはもう揶揄ではなくリアルに足りている。
しょうがないかと足元を見た途端、黒い丸いのがたくさん私を見つめていた。
「はっ!!まっくろくろすけっ!!?」
「すすわたりじゃ」
釜爺の意外にクールなツッコミに何となく心打たれたのは秘密だ。