「帰りなさい。ここにいてはいけない」
そんなこと言ったって、子どもには子どもの事情があるのよ!
油屋と私。
「千尋?」
衝撃の新事実はしばらく私を遠いところに旅立たせていたらしい。
はっと気付けば目の前に少年の顔があった。
「・・・・顔近っ!」
ビー玉みたいな彼の目の中には阿呆面した私の顔が映っている。
「あ!父と母探さなきゃ!」
あまりの顔の近さに少年を振り切るように走り出した。
「待ちなさい!」
「待てるか!子ども一人帰って何が出来るって言うのさ!」
まだ離れて時間はそうたっていない。
豚になる前に連れて帰らなくては。
言うのは何なので言わないが、家族愛ではなく自己愛である。
せめて十八までは元気でいてねご両親。
「はぁはぁはぁ!」
息が切れる。
寂れたテーマパークに似た町並みに両親を探す。
自分が『千尋』だって知っていればもうちょい体力作りをしたものの!
「お父さぁん!おかあさぁん!!」
今の私は原作そっくりのモヤシみたいな女の子。
体育はあのテンションについていけないから苦手だ。
「おとぉさぁん!おかぁさぁん!!」
紅い屋根。
低い建物。
沖縄の古い建物を思い出す。
もちろん前世の記憶だが、行ったのは高校の修学旅行きっり。
後は小さな世界なテーママークだ。
「くそっ!めんどくせー!!」
思わず本音がこぼれ落ちました。
まだだ。
まだ間に合う、はずだ。
何を罷り間違ったか知らないが、映画の主人公なんて真っ平ごめんだ。
しかも何故、千ちひ。
古いぞ。
どうせならハウル、
「否、奴は好みじゃねぇ」
不意に鼻先に香る食べ物の匂い。
湯気の見える店先。
「あそこか!」
調わない息をそのままに路地に走り込んだ。
「おとぅ、」
丸々太った背中。
荒い鼻息。
びちゃびちゃと残飯が溢れ落ち、耳障りな鳴き声。
大きな、大きな、豚が、
二匹。
「ホラァ――――――!!」
誰だ子ども向けアニメなんて言ったやつぅぅぅぅううううううう!!!!!!
そのまま転がるように走り出した。
足は止まらない。
途中おかっぱ君が何か言っていたが、覚えていない。
ただ、走って走って走って走って、
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・」
遠くにかすむ、街明かり。
近づく屋形船。
飲み込まれそうな水音。
あるはずのなかった川。
全て、全てが、
「だれか、夢だといってくれぇぇぇぇええええええ!!!!!」
年甲斐もなく、大声で叫んだ。
否、小学四年生、許される、はず、だ。
拍手再録。
ホラーって言って欲しかった。
どうなりたいんだ、あたし(笑)