全力で自分のスペッグをフル活用すると誓ったので、


「どうしよう!お父さんもお母さんもここにいない!」


内心ガクブルで映画の台詞を演じきり、


「大当たり〜!」


赤子と蝿と狐と蜘蛛にのみ手をふって、


「ハク!」


大団円のその後は、






彼との別れが待っている。




 

 

 

 

油屋と私。






「千尋」





ハクと手を繋ぎ、ここへ訪れた道を辿る。

まさかこんな事が起こるなんて思いもしなかった数日前の自分を思い出す。





「ハク」





川になっていたあの場所は地面が顔を出し、今なら容易に渡れるだろう。





「ハク」

「千尋?」





握った手に力を込めた。

わかってる。

ハクは行けない。

今、彼がこちらに来ても名を縛られ棲みかのない竜は、生きてはいけない。





「ハク」





手が離せない。

わかってる。

決めたはずだ。

自分の世界で自分ができることを全部やると。





「ハク」





馬鹿みたいに名前を呼んだ。

わかってる。

でも、頭から妄想が放れない。

もう二度と会えないんじゃないか。

もし、ハクが私の知らないところで消えてしまったら。

もし、私が先に死んでしまったら。





「ハク」





彼の瞳に歪んだ顔の私が映る。

わかってる。

でも、怖くて恐くて仕方ない。





「大丈夫、わたしも名を思い出したから」





ハクはそう爽やかに笑った。

それに、と少しはにかんで言葉を続ける。





「もうひとつ、思い出した事があるんだ」





ハクは言葉を続ける。

爽やかな夏の風が彼の髪に絡まり溶けた。





「あの時、棲みかをなくてしまったあの時。何故、魔女の弟子に身をやつしてまで生き長らえたかったのか。何をしたかったのか、思い出した」





ハクは満足そうに笑い、私を見た。

そして、頬を染め、私の両手を握り、言った。





「あの幼い人の子が、わたしの中を流れていった人の子が、どうなったのか知りたかった」





わたしが川辺に運んだから生きているのは知っていたけど、と視線を外してはにかんだと思うと、また私の目をビー玉のようなあの瞳が私を捕らえた。





「あの日以来、姿を見せなくなったあの人の子と、もう一度会いたくてずっとずっと待っていた。私を、この川を嫌いになってしまっただろうか?怖い思いはしなかっただろうか?せめて姿だけでも見えないか。そう、ずっとずっと待っていた」





伏せた瞳に陰が映る。





「名を忘れる程に、全てを忘れるほどに待っていたけれど、」





握られた両手にぎゅっと力が込められた。





「やっと会えた。わたしはずっと千尋に会いたかったんだ」





満面の笑みを浮かべたハクは手を離し、ぎゅっと私を抱き締めた。





「だから、絶対に千尋に会いにゆくよ。そして共に暮らそう。ずっと、共に歩もう。千尋」





そっと腕を解いたハクは神々しく輝いているようで、とうとう私は両手両膝を地面に押し付けた。

もうダメ。

大分前からダメだったけど、今本当にダメ。

脈拍血圧、共にヤバいところまで来てる。絶対。

私の理性を試しているのかそうなのか!

その笑顔はなんだ!そのはにかみは!はははは鼻血でるやろー!

私、一生ハクに頭上がらない気がする。





「さあ千尋、行って。決して振り返ってはいけないよ」





前を見据えるハクの瞳はとても美しくて、





「振り向かないよ、今の私にはハクとの幸せな未来しか見えないからね」





そんな馬鹿なことを言ってもう一度額をすり寄せた。





「必ず、また会おう」





二人そう呟いて、私は前を向いた。




もう二度と振り向かない。


挫けることがあったって、


もう二度と過去に浸ったりしない。


私の、荻野千尋の人生は、





「ハク愛してるぜ!」





そう、私の人生はここから始まるのだ。





「いっくぞぉぉぉぉおおお!!!」





高らかに叫べ。

私の人生はまだまだこれからだ!!











拍手再録。
ハク様完全に捏造してありますから!○目友○帳イメージです。
真名は完全にどっかの天使と狼ですしね(苦笑)
人生もお話もまだまだこれからだぜぃ、とか言ってみる。
 
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