ハクは、目をぱちくりさせている。

おっと、これは終わったか!?





 




 

油屋と私。











「・・・・っ」





自由落下の速度は次第に落ち、私たちはゆっくりと草原に降り立った。

さあぁぁぁ、と風が音をたてて草を撫でていった。

ハクは目をぱちくりさせていたかと思うとそっと悲しげに目を伏せた。

おーいおいおいおいおい、これはまさかの最悪パターンんですか?と尋ねたくても怖すぎて口が開かない。

そろそろ私死ぬかもしれない、と思ったところでハクがその形の良い口をそっと動かした。





「・・・・私は竜だよ?」

「知ってるよ?」





思わず小首を傾げる。

今まで一体何の背に乗っていたと思うんだね、チミは?とは聞かない。

私だって空気は読める。





「人の子とは違う」

「うん」





ポツポツとハクが思いを語る。

こんな場面、映画にはない。

私も、ハクも、生きているからだ。





「それに、棲みかを追われた身だ」

「うん、」





映画通り、こはく川は埋め立てられ、今はマンションが建っている。

それをどうこうする事は、私にはできない。

今はまだ。





「私ね、この十年、ずっと不貞腐れて、文句ばかり言ってた」





勝手に死んで、勝手に生まれた私には、目標も目的も夢も希望もなかった。

今までは。





「でも、今は違う。ハク、あなたの事を愛しているの。竜も人も関係ない。あなたと一緒にこれからの人生を生きていきたい」
 




人並みの人生が歩めない?そんなの元から糞食らえ、だ。
 
一生処女でも、一生未婚でも、ハクのために、この人生全てをかけたい。
 
私はこの人生をかけてでも、あなたと過ごせる世界をつくりたいのよ。
 
さらさらと流れる黒髪、ビー玉のような瞳、こつんとおでこをくっ付けるとその瞳の中に穏やかに笑う千が、千尋が、私が、いた。






「私の真名を、ハクに贈るわ」





錢婆が提示した唯一の方法。

真名を贈りあった者は互いを引き合う半身となるという。



それは、ハクが私を忘れない願い。

それは、私がハクを愛する証。

それは、ハクが私を見つける目印。

それは、私が過去を手放し、未来を生きる誓願。





「私と一緒に生きてくれる?」





例え、前の名を忘れても、自分を見失ったりしない。

例え、前の人生を忘れても、道に迷ったりしない。





「この、今までは私がすがるだけで無駄にしてきた知識も精神もフル活用して、全力でハクの生きやすい世界をつくる」





必ず、そう言葉を足して額を離す。





「ニギハヤミコハクヌシ」





初めて彼の真名を口にする。

真っ直ぐに私を見るビー玉のような瞳は、穏やかに穏やかに、私を映していた。





「私の名前を、呼んで?」





呼んで欲しくてたまらなかった、その名を、その音を、その言葉を、





「   」





ハクが口にしたその感動は、涙となって溢れ出し、頬を濡らし、未来を照らした。





「共に、生きよう」





彼の腕の中で、私は覚えている限りで初めて、幸福の涙を流した。











 





拍手再録。
自分がアラサーで美少年にプロポーズされる小説(夢)をにやにや打ってるかと思うと若干引きます。
言語化するって怖ぇ。
何でいいシーンでこんなこと言うかって?
今までにないラブシーンにいろいろ耐えられないからです。
恥ずかしがり屋ですみません。本性は最果て夢主かトリップ夢主に近いかぁこです。
エンディングまであと少し!盛り上がっていきましょう(←盛り下げたのはお前だ)
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