白竜の角、らしきところに掴まりながら空を行く。

ナニコレ、気まずさ半端ない。


 










油屋と私。









沼の底を飛び立つと、見る見るうちに銭婆とカオナシは豆粒大になり、カンテラが手を降る。

目の前は壮大な緑と川と空。

風が顔面を叩き、髪を乱す。

飛んでいきそうな小動物たちを捕まえて服の中に入れておく。

目が開けられず鬣に顔を埋める。





「・・・・っ」





この間、無言。

ダメだった、ダメだったよ私。

まず出会い頭に悲鳴を上げたのがまずかった。

だってあからさまにしょんぼりしたもの、この大型犬系白竜。

髭がしなってしたもの、しなって。





「ちう?」





胸元(といってもフジコちゃん的なものはないので単なるシャツの首元だ)から顔を出し様子を伺う小動物。
坊にまで心配されました。

会話をっ!何か会話をしなければっ!!





「あ」





キョロキョロと話題を探していたら眼下に広がる川の流れ。





「忘れてた、何がなんでもこれは話しておかないとダメだった」





ダメじゃん私、と小さく突っ込むと体の下から戸惑ったような気配。

掴んでいる角を少しだけ撫で、風の中でも声が届くように体をよりハクに近付けた。

ドキドキなんてしないんだからね!相手、今、竜だからね!





「ハク・・・・昔ね、私が住んでた家の近くに小さな川があったの」





昔、といっても七年前だ。

つまり私がまだ三歳で、

まさか自分が千だなんて思っていなかった、

不貞腐れ幼少期三年目だ。

そう考えると結構昔なのかもしれない。





「小さいけれど魚もいて綺麗な川だったわ。そこで、溺れた事があるの」




忘れもしない三歳の夏。

絶賛不貞腐れ期間中だった私は、両親にも必要以上になつかないわ、他の幼児と遊ばないわ、かといって一人遊びもしないわで大変厄介な子どもだった。

そんな厄介な娘に対して母親は冷静であり、父親は大変ポジティブだった。

彼は可愛げのない私に対して、全くめげず動じずあれやこれやと連れ回し、その中のひとつがその小川。

そこで大変ポジティブであり、しかし残念ながらどこか大雑把な彼は、なんと手元が狂い私を川へ放り込んだのだ。

落っことした、という表現が正しいのかもしれないがこの時の私の心境といえば、





(あのおとこ、まじ、ぜったい、ぶんなぐる)





スローモーションで見えた朗らかで事の重大さに全く気付いていないその笑顔に思わず中指を立てていた。

その後の記憶は全くない。

気付いたら部屋で眠っていて、母にど叱られる父を見てざまぁ、と鼻で笑ったぐらいだ。

それ以降、父への長い長い反抗期が始まって、尚且終わる気配もない訳だがそれはともかく。





「その川の名前は、コハクガワ。琥珀川よ。聞き覚えは」





ない?と続ける前に突然体を支えるものがなくなった。





「っ〜〜〜〜ぁ!!!」





突然過ぎて悲鳴は出ない。

ただ内蔵がひっくり返りせり上がり、息を吸い込みながらの絶句のみ。

目の前を白い花びらが飛び散る。

ハナミズキのようなそれは花びらでなく白い鱗で。

それはつまり、





「千尋」





ハクのビー玉のような瞳が私にぶつかり、綺麗な黒髪がさらさら流れる。





「千尋、思い出したよ。わたしの名前は、ニギハヤミコハクヌシ」





そう、かの有名なあのシーンだ。

観客である時ならばある一定の感動を得て、うんうん思っている状態なのだが。





「む、無理無理無理無理、自由落下はむりむりむりむり」





ヤ、これはダメ。絶対。

あまりの恐怖に歯が鳴る。





「大丈夫、わたしがいるよ」





両手をきゅっと握ってくれるものの、自由落下の恐怖は薄れない。

風が目にガンガン入って涙が浮かび、恐怖によってだーだー流れ、風のおかげで涙は上向きだ。

両手だけじゃむりむりむりむり、と体全体でハクにしがみついた。

絵にならない?

喧しい!こちとら生きていくのに精一杯だっ!





「っ!・・・・千尋は、わたしの事が怖いのではないの?」





何故だかかなりびっくりした顔でびっくりする事を聞いてきたニギハヤミコハクヌシ。

何で?としがみついたまま彼の顔を見上げると、ビー玉に戸惑ったような嬉しいような悲しいようなと複雑な色を乗せて私を見た。





「千尋は、いつも困っていたから。特に、千と呼ばれた時からわたしを見て辛い顔をしていた」





それはエレベーターのハク様事件の時ですか?





「それにその後も、わたしと顔を合わせたくないようで」





うん、おかしな夢見た日の話ですね?





「それに、竜のわたしを、怖がっていたように、見えたから」





間違いなくさっきの事ですな。





「だから・・・・」





何だろう、このかわいい生き物は。

喋りながらしょんぼりしてきたらしく、俯いたまま語尾が消えていく。





「ナニコレ、可愛さ半端ない」

「千尋?」





しまった、口に出てた。




「ばかだなあ」





口に出たついでにもひとつ本音をぽろり。

もっとしゅんとした少年にもっともっと力と想いを込めて抱きついた。





「私が、ハクを嫌うわけないじゃないか」





強風が頬を叩く。

怖くない。

地面が近付く。

怖くない。



だだ、





「ハク、私と、一緒に生きて?」





この手が離れてしまうことが、




「あなたのことを、」





怖い。





「あいしているの」





お願い、









生きて。

 











拍手再録。
ハクのあまりの純白ぶりにビビる一枚となりました(笑)
若干、戦うセバ○チャンにでも出てきそうなイメージで書いたおとんとおかんがお気に入りです。
 
 
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