銭婆はひとつだけ方法を示し、
きらきら輝く髪ゴムをくれただけで、
他には何も言わなかった。
ただ、
「後はあんたの世界でやり残した事をやりな。後悔のないようにね」
ただ生きろと言われて、
思い出した。
こんだけ盛り上がっといてなんですが、
私、ハクに何にも言ってない。
油屋と私。
「先走った・・・・っ!先走ったよ私!!」
抜かったっ!と思わず額をテーブルに打ち付ける。
これは致命的だ。
確かに思い立ったが吉日状態で突っ切ってきたが、そもそもハクにはなんの話もしていない。
てゆーか少年ハクに会ったのいつだ?
あのおにぎりもらった時って余計な事まで思い出すなよ脳味噌よ!
確かに脈アリな気はするけど神様の恋愛事情とか知らないしそもそも恋とか愛とかの感情あるの?
ってか一緒に生きてって言っていや〜それはちょっととか言われちゃったらどうする気っ!?
人間とはちょっと的な?
見た目子どもだし好きは好きでもLOVEよりLikeみたいな?
そんな気なかったのに勘違いさせてごめんみたいなっ!?
「〜〜〜っ!!どーしようおばーちゃん!!」
終わった!私終わった!!と叫べばかなりの失笑を買った。
「赤くなったり青くなったり、忙しい子だこと」
「だって!・・・・いや、だって!!」
これでふられたら私ちょっと生きていけない!と泣きつくとはいはい、と軽くかわされ紅茶のおかわりを頂いた。
「ううう、おいしーです」
「全く、あんたはまだまだ子どもだねぇ」
中身は三十路越えですがね、なんて口が裂けてもいけない。
経験が伴わず知識だけ大人だなんて、
自分で体験せずわかったつもりでいるなんて、
子どもより愚かで未熟で救われない。
そんな自分にもう戻る事がないように、
「返す言葉もありません」
そう言った私に銭婆はまた優しく頭を撫でた。
「そんなに難しく考えることもないさ。何もかもを糧にしていく、それがあんたたち人間の強みだよ」
「おばーちゃん・・・・」
「さあ、ボーイフレンドのお迎えだ」
「ひぃ!」
うっそ!!と小さく叫んだ私の顔は到底愛する相手に対する顔色ではない。
しっかりやんなよ、と小さくもらった大きな目からのウインクに後押しされ、私は銭婆の家を後にした。