「高い高い高い高い!!」
現在、私は壁にいます。
はっはっはっ!壁。
「しーぬ!しーぬ!」
正確には樋に掴まりよじ登っている最中だ。
あれ?何でこんな事になったんだろう?
見上げれば獣は最上階に飛び込んだところだ。
「・・・・ハク」
くそう、頑張っちゃったなあ、こんなのキャラじゃないのになあ。
胸中に浮かぶのは後悔ばかり。
それでも体は上へ上へと急いている。
出窓を体当たりで開ける。
うんともすんとも言わない。
「このっ!」
これって確か映画だと、と思った瞬間に出窓が開いて転げ落ちた。
「ぐあっ」
後頭部!!
しばらくのた打ち回り、痛む頭を抱え走り出した。
急がなければ、
気持ちが急く。
「どこだここっ!?」
映画沿いなら問題ない。
きっとハクは大丈夫。
私は千で、千尋だ。
「・・・・ハクっ」
そして、名前を忘れた誰か。
映画沿いなんて糞喰らえ。
私は私だ。
私は千で千尋で私だから。
私が死ぬ気で頑張らなけりゃ、助からない。
「ハク!」
ハクは私を助けてくれた。
温度をくれた。
優しさをくれた。
傍に、いてくれた。
「ハク!!」
両手にベッタリと付いた血痕。
今度は私の番だ。
手当たり次第扉を開ける。
「くっそ!」
はずれ、はずれ、はずれ!
「っ!」
カラフルな壁紙に転がる玩具。
「ここって・・・・ぎゃっ!?」
確か?と思った瞬間、腕を捕まれクッションの山へと引きずり込まれた。
腕!外れるっ!!
「ボクとあそべ!」
目の前には巨大な赤ん坊。
「あそんでくれないと、坊、ないちゃうぞ、こんなうで、おっちゃうぞ」
腕にかかる圧力。
ミシミシと痛む腕。
「・・・・まえ、と」
「え?」
「遊んでる暇などないわー!!!」
鬼の形相で大声で怒鳴ると当たり前だが泣き出す赤ん坊。
湯婆婆に見つかるとか、カオナシとか、坊とか、ホントどうでもいい。
「・・・・ハク!!」
今の私には、ハクさえいれば、それでいい。
お願いだから、
無事でいて。