それからはもう、
働いて働いて働いて、
油屋と私。
「せーんっ!」
「はいただいまっ!」
雑巾をかける手を止めず声を張り上げる。
「これも運びな!」
「はいよろこんでっ!」
お膳を限界まで重ねられ早足で廊下を進む。
「千まだかい!」
「今行きまーすっ!」
ブラシがけの勢いのままゴミをまとめて走る。
「後ろ通りま〜す!」
「ぎゃっ!」
時には蛙蛞蝓突飛ばし水入りバケツを運ぶ。
なんっっって、楽しいんだっ!旅館!!旅館いいな!旅館。帰ったら旅館に就職しよう。
そんな事を本気で考え、縁側の窓を開け水を流したその時だ。
「っはっ!!」
「・・・・ぁ」
忘れてたぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!
目の端に映る黒い影、ジャミラじゃないし、黒いゴミ袋でもない。
言わずとしてたカオナシだ。
「っ・・・・!」
思わず目が合ったまま硬直する。
だってだって、
胸中を言い訳が巡る。
今まで一回も会わなかったじゃん!あれ?どっかで出てきたっけってかそれどころじゃなかったし、ハクにってああああああああ!!思い出すな!思い出すな私!
「・・・・ぁっ」
がっつんがっつん額を柱に打ち付ける私に若干引き気味のカオナシなんてどうでもいい。
この年になってって今十歳ですけれども!ハクにすがって泣くとか!よしよしとか!!ぎゅっととか!!こつんとか!!もう!本当に私なんてっ!!
「死ねるっ!死にたくないけど!!」
「ぁ」
「うっさい!」
私混乱。
カオナシ惨し。
「千!何油売ってんだ!」
「売ってねぇよ!今行きます!!」
勢いのまま牙を向きそのまま走った。
「っ〜〜〜!!」
腕の暖かさとか力強さとか、
ビー玉の様な瞳、体を包む香り、声が鼓膜を震わす感覚、
千尋、と呼ぶ声、
「しんじゃうっ!!」
死なないけど!と口走りながら仕事に戻る。
もちろん、窓なんて閉めてこなかった。
拍手再録
これが恋なのか肉欲なのか・・・・?
悩むところです。(悩むな!)
この一軒でやっぱりジャミラ、ではなく黒いあんちくしょうは油屋に入ってきますでしょうね。
本来招き入れないと入って来れないらしいですが、まあ、会話してるので良しとしてください。
てか、皆さん、ジャミラってご存知?(笑)