人生っていろいろある。
びっくりしちゃうぐらい、いろいろある。
これは、その中の最たるもので。
だから私は決めたの。
絶対幸せになってやる。
3
朝、目が覚めたら知らない部屋でした。
「・・・・どこ・・・・ここ」
これが私がこの世界に来た時の初見初一言。
「おお、目が覚めたかい?」
そして第一異世界人はこの団子屋の店主。
もちろん、異世界だなんて知ったのはこの後だ。
「えっ・・・・と」
「あんた、うちの店の前で倒れてたんだよ。覚えはあるかい?」
「いえ、全く」
一瞬、身の危険を感じるも結構なご高齢の店主にそれはない、と早々にその可能性を打ち消す。
「あの、ここ何処ですか?」
「江戸、かぶき町のしがない団子屋さぁ、今、ばぁさんを」
「えどぉっ!?」
時かけっ!?私ったら時をかける少女、は言い過ぎだから女?あら、語呂が悪い。
「あらあら目が覚めたのね?天人から逃げてきたのかと思っ」
「あまんとぉっ!!?」
時じゃない!時じゃないもん駈けて来ちゃったよ私!世界をかける女!って世界を股にかけたら海賊王ね。
「大丈夫かしら」
「大丈夫かのう」
そんな気のいい老夫婦と共に異世界ライフが始まったのだ。
普通、異世界トリップなんてものは、
「ちゃ〜ん!みたらし三本!」
否、定義がある訳ではないだろう。
「こっちも追加お願ぁい!」
それでも、普通はメインキャラクターに近いところにいたりするんじゃないだろうか?
「、これ持ってっとくれ」
万事屋に拾われるとか。
真選組に拾われるとか。
攘夷に拾われるとか。
「ちゃ〜ん!」
めっちゃ普通に働いてますけど?
「はい、今行きます」
何処にいようと働かざる者を食うべからず。
「さんのお陰ですっかり繁盛したわねぇ」
ちゃっかり看板娘。やっぱり娘は言い過ぎかしら?
「ご恩返しにはまだまだですよ」
この団子屋も物語に登場した濃いキャラの団子屋ではない。
パジャマ一枚で落っこちてきたこの世界。
せっせと働いて気付けば一ヶ月。
何の問題もなく過ぎようとしていた。
「問題、ねぇ」
ないわけではない。
むしろいっぱいある。
今後の事、世界の事、家の事、実家の事。
挙げればキリがないが一番大きいのが戸籍の事。
これがなければ他の仕事も家も結婚すらもままならない。
「ちゃ〜ん!」
「はい」
考えてみた。
突然の出来事、
突然の事故、
突然の不幸、
人生いろいろありすぎて、
「、休憩入るか」
「さん、お昼何が食べたいかしら?」
ここで暮らすのもいいなあと思った。
ならば、そう。
帰る家が、必要だ。
大事な人。
優しい人。
心休まる人。
私の家に、なってくれる人。
「ちょ!銀さんどこ行くんですか!」
「糖補給に決まってんだろが」
「ホント死にますよアンタ!」
「ダメネ新八。所詮こいつはマダオネ!まるでダメダメなおっさんアル!」
「おいダメ一個増えてんぞぉ!」
賑やかな声が暖簾を叩く。
「いぃんだよ!ここ新しい看板娘が来てから団子が美味くなったって」
視線が交わる。
銀髪のふわふわした頭。
赤い瞳は少し眉から離れ、まさに死んだ魚のよう。
「っ!」
「・・・・ぁ、」
出会いは一瞬。
バチッとした音と共に、
「ないわね」
「って何がぁぁぁぁあああ!初対面で突然何から除外されたのオレェェェエエ!!!!」
「いらっしゃいませ。カウンターでよろしいですか?」
「無視っ!?何なんにもなかったふりして接客してんのこの人ォォォオ!」
初めての遭遇は、こんな感じで始まった。