それから、
それから、それから。
三歳その後。
アーサーにねだり、買ってもらったノートとペンを持つ。
幼い手で綴られる、幼い文字。
「そもそも、3さいで、なにか、かわるとおもっていたことが、まちがいで、」
しかし、その内容は誰にも読めない。
「そろそろ、チェインが、うまれる、はず、だ」
読ますつもりもない。
覚えていること、思ったこと、考えたことをそのままに、日本語で書き綴る。
「デイジー・ローズ、がうまれて、すうねんたてば、リィがくるだろう。あたしはそれまで、まともで、いられるだろうか」
感情を吐き出すのだ。
「そう、おもく、かんがえることも、ないだろう。たのしみは、ある、のだから」
月日がどんなに過ぎてもあたしはあたしのままで、『ドミューシア』にはなれなかった。
昔の記憶は残ったまま―――この世界の言葉を学びながら、そっと日本語で日記をつける事にした。
アーサーとマーガレットには落書きにしか見えないだろう、文字。
「キングはいまも、いきている。ぞんめいの、うちにあってみたい」
元の世界が恋しい。
でも、帰れない。
あたしは死んだのだから。
「こどもらしく、いられるかは、これからの、かだい。がっこう、せいかつが、きおも、だ」
こっちのあたしは自分より若い両親に育てられ、世界を生きる。
ドミューシアになれぬまま。
「・・・・、はたして、あたしはなんなの、だろう。このせかいは、なんだ。ほん、の、なか、というわけでは、あるまい」
不意にとんでもなく不安に陥る。
まともな子どもでないことの罪悪感。
原作通りのドミューシアになれない罪悪感。
「ドミューシア、はどうしている、のだろう。そんざい、すべき、たましいは、どこにいったのか」
あたしは『ドミューシア』の人生を奪ったのかもしれない恐怖感。
「わからないことは、おおいが、かりに、パラレルワールド、としてみる、べきかもしれない」
あたしらしく生きるってどういう事?
自室から見上げる空は蒼い。
青い青い、空。
懐かしさに視界が歪む。
「もし、このまま・・・・」
手が止まる。
もし、このまま、
記憶も意識もそのままなら、
ここで大きくなるんだろうか。
ドミューシアになれぬまま。
原作に追い付いて、追い越して。
「大きくなったら、どうしよう・・・・」
大人になってどうしよう?何をしよう?どう生きよう?
何のために、
「生きれば、いいんだろう・・・・?」
(もう三年、あたしはここにいる)
(考えて、考えて、今日もまた、日が落ちる)