日常的にそこそこ可愛い格好をさせられて数日。



「どうしたんだ、珍しいな着飾るなんて」




  
図書館で出会った黒すけ氏が本を読みながら器用に片眉を上げた。

それそれこれこれあったんだ、と説明すると、




「君は本当にあれに弱いな」



と苦笑しながら頭を撫でられた。



「あれ、姉御?可愛い格好してどっか行くのか?」



何故か廊下ですれ違った猫すけ氏に捕まり、それそれこれこれあったんだとゆーか姉御呼びやめなさい。




「へぇ、いいな。そんな格好も」



髪を結んだリボンを軽く手に取り、穏やかに微笑まれた。

みたいな事があった数日後。



「さあ!どういう事か説明してちょうだい!!ミス・ヴァレンタイン!!!」



大勢のお嬢様方に囲まれていますなう。





十五歳、お約束。






ほらね、似合わない事をするとロクな事がないんだよ銀色さん。

今日も共同ラウンジで私の髪にウキウキとリボンを編み込んでいた可愛い弟分を思い出す。

いや、金色狼も誉めてくれたしそれは良い。

それは良いのだが。



「聞いてるの!?ミス・ヴァレンタイン!!」

「いや、うん、ごめん。話が見えない」 



朝、弟たちと戯れたラウンジで結構な人数のお嬢様方に囲まれ後がない。

壁と仲良くなりながら口の端が引くつく。

説明してもらいたいのはこちらの方だ。

放課後は図書館と決めているのだ。

昼休みも図書館だけど。



「だから、二人との関係を聞いているのよ!」



先程からエキサイトしている赤髪のお嬢様が眦を吊り上げる。

結構な美人さんなのに勿体無い。



「二人、とは?」

「レティーとヴァンツァーよっ!!」



おお、更につり上がった。

決してからかっているつもりはない。

二人って言ったら弟たちかもしれないし、怪獣夫婦かもしれないし。

まあ、気の立っている女子たちに囲まれるのは大体お年頃イケメン野郎のせいだが。



「友達よ。普通に」

「嘘よ!毎日図書館でこっそり会ってるじゃない!!」



今度エキサイトしたのは茶髪のくるくるした頭の女の子。

いや、くるくるしてるのは髪型であって頭ではない。



「いや、彼に会いに図書館に行ってるじゃなくて、図書館に行ったらたまたまいるだけで、」

「わざわざ同じテーブルでイチャイチャしといてよく言うわ!」



駄目だ。

脳味噌もくるくるしたお嬢さんの様だ。

黙々と本を読んでいる男女がイチャイチャしてるなら手を繋いだら淫行罪で捕まえる気か。

そもそも嘘ってなんだ。

私が友達の方が都合がいいだろうに恋仲であってほしいのか。



「ヴァンツァーだけじゃないわ。貴女、レティーとも親しいみたいじゃない?」



こいつ馬鹿じゃねぇの?みたいな目で少女を見ていたらストレートロングのクール眼鏡女子が冷静に声を上げた。



「レティーはみんなに優しいのよ。勘違いしないでくれる?」



いや、ここにいる時点で大分冷静ではない。

君が一番勘違いさんだよ。

クール眼鏡さんの後ろの女子たちが口々に私と猫すけさんが一緒にいた場所とシチュエーションを教えてくれる。

ちょ、待って。

ストーカーレベルで怖いわ、この人たち。



「で、普通の友達である私に何をしてほしいの?」



聞くに耐えない、というより段々面倒臭くなってため息と共に吐き出した。

この手の絡みの結論は大体こうだ。



「二人に会うな、っていう話なら聞かないわよ」

「な!!」



ここ一番のハッスルを見せる彼女たちに、こちらも苛々と米神を揉む。

何でこんな下らない事に時間を取られなきゃならないんだ。

今日の予定がパーじゃないか。



「貴女、やっぱり・・・・!!」

「あ、の、ねぇ、」



何だか血管切れそうな赤髪美人に深々とため息をついた。



「な、ん、で、私の交友関係を見ず知らずの貴女方に指示されなきゃいけないのよ?」

「疚しいことがなければできるはずよ!」

「疚しいことがなくてもお断りよ。あんたらの誰かが二人の彼女だとしてもお断りだわ」



何なのこの子ら?馬鹿なの?どうしたの?恋するお嬢さんたちは盲目でなければならないっていう御触れでもあるの? 



「なんですって!!」



ギャンギャン騒ぎだしたお嬢さんたちに思わず片耳を塞ぐ。

生意気だの、二人が迷惑してるだの、釣り合わないだの、よくもまあ口から出るものだ。

何度でも言わせてもらおう。



「関係ないわ」

「関係ない、ですって!!?」



そう、関係ない。

とにかく必死に生きてきた私にはある意味同年代の友人はいない。

最近やっと仲良くなってきたのが委員長とクラスメイトたちで、

実は本気で同年代なのは怪獣夫婦の奥様だし、ちょっと下が今話題のイケメンズだ。

だがしかし、

そもそも、そもそも、だ。



「あの二人好みじゃないのよ」



あれほどまでに騒がしかったラウンジが一瞬にして静まり返った。



「・・・・・・・・・・・・は?」

「聞こえなかった?好みじゃないの」



なんてゆーか、若い。

特に猫すけさん。

あのテンションについていけないし、

黒すけさんは黒すけさんで図書館仲間としては最高だが彼氏とか恋仲になるのはどうかと思う。

いかにもイケメンな面も細マッチョもちょっと嫌。

大体二人とも三十前でしょ?若すぎるわ。



「じゃ、じゃあ、あの金髪と銀髪の子たちが好きなの・・・・?」

「何で弟とその友達に秋波送らなきゃならないのよ張っ倒すわよ」



一息で言い切ると戸惑いまくる少女たちが更に揺れた。

その時だ。



「じゃあどんなのが好みなんだい?」



ここにいるはずのない、と、彼女らが思い込んでいた声が響く。

こんな公共の場で馬鹿騒ぎしていれば目立つに決まっている。

それに加えて当事者の二人組は一般人より鋭い。

バレない方がどうかしている。



「とにかく学生はないわね」

「年上が好きなのか」



なら問題ないじゃないかとしれっと言うのやめてくれないか黒すけ。

そーゆーところが危ないんだよ君は。



「結構オススメだぜ?オレとか」

「もっとがっしりした人が好みなの」

「そんなやつよりオレの方が強いぜ?」

「君らより強い人なんてこの辺にはいないわよ」



当たり前のように会話をしている間に目の前のお嬢さんたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

なんてまあ呆気ない。



「助かったわ。一応」

「俺たちは何もしていないな」

「だから、一応、よ」

「オトモダチのピンチに駆けつけるのが友情なんだろう?」




そ知らぬ顔で首を振る黒すけさんとニヒヒっと笑う猫すけさん。

良いコンビだこと。



「それでどんな男が好みなんだ?」

「・・・・ねぇ、その話、まだ引っ張るの?」

「だって気になるじゃねぇか!あの姉御がどんな男が好みなのか!」



本当に良いコンビだこと。



「そうねぇ」



やっと静かになったラウンジで珈琲を頼むと、一つのテーブルを三人で囲んだ。

当たり前のように私を挟んで二人も座っている。

君たちのその面の良さにはもう慣れてしまったが、自然にそーゆー事をするから小娘どもに囲まれる事になるのだ。

いや、いいんだけど。

親しい友達にはかわりない。

好みではないが。



「で?で?で?」



キラキラ好奇心旺盛な瞳でこちらを急かす猫すけさんと、



「・・・・・・・・」



珈琲を飲みながら無言で何時間でも待つ姿勢の黒すけさん。



「多分・・・・」



嫉妬も執着も依存も色恋絡まないこの関係がとても心地好い。

人間的にはとても好きなこの人たちと過ごす夕暮れ。



「四、五十歳になった王さまとかすんごいタイプだわ」

「え?」

「え?」

「「「え?」」」

「あ、」



振り返った先に金銀黒の三天使が立っていたのは最高のお約束だと思う。







おまけ

「ドミ、お前、ウォルの事が・・・・」

「いやいやいやいや、待ってリィ。好みと好きは違うから」

「そんな・・・・」

「いや、銀色さん!その悲壮顔やめて!どっちを支えればみたいなのやめて!!」

「言ってくれれば良かったのに」

「待て天使。言ってどうする!別にどーもなりたくないから目の保養ぐらいだから!」

「本っ当に、姉御はこいつらに弱いよなぁ」

「あの女たちには動揺すらしない彼女がな」

「ってゆーか、何で姉御デルフィニア王知ってんの?」

「って、そこから!!?」







お約束、とゆー名のテンプレ。

モブのお嬢さんたちをこういう使い方するの好きじゃないんですけど、今流行の(かぁこの中で)乙女ゲー転生物みたいでつい(笑)

昔のドミは筋肉が好きだ、を思い出して(笑)後、確かデルフィニアに行ったことを猫すけさんと、黒すけさんに話してないなーと(笑)

おまけをつけるのが癖になってきました(苦笑)

いろんな事がおぼろげになりつつありますがお許しを。

得に学校の位置関係。

今更ちゃんとしたお話はこちらでは望まないようにお願いします。

ドミがみんなとわちゃわちゃしてるのを書くのが好きなんです。

さて、次はどーしましょう?

実はすっ飛ばしたネタの中で女王の男装があって、どーしても見たい。

どーしてもドミ嬢とデートしてほしい、んで男性チームが悔しがってほしいみたいなのが・・・・

あ、ここまでやっといて何ですが決して逆ハーではございません。

全力で友情物です!(キラ)

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