「お付き合い、いただけますか?」




鬼気迫る顔から発せられたその台詞。

あたしの耳に届いた副音声では、

どう聞いても疑問符は付いていなかった。





15歳、お洒落。





「えーっと、」




本当にどうしてこうなった。

決して嫌なわけではない。

嫌なわけではないが、不思議と言うか、おかしいと言うか、何かを思い出すと言うか、




「ドミ、これはどうですか?」

「可愛らし過ぎます。銀色さん」




真剣な顔で白のヒラヒラワンピースをあたしに当てる銀色さん。

遠い目をしているであろうあたし。

アレだ。

デルフィニア行ったときの子栗鼠さんとの服選びに似ているんだ。




「よく似合ってますよ?」

「いやいやいやいや、フリルが辛いよ!膝丈無理無理!」




何をしているかというと、銀色さんと二人何故かショッピングをしています。

いや、何度も言うけど嫌な訳じゃない。

嫌なわけではないが、休日にだらだらしていた所を突然銀色さんの襲撃を受け流されっぱなして今に至るので全く脳味噌がついていかない。




「ねぇねぇ銀色さん?リィは?」




渋々ワンピースを戻しこれまた淡いピンクのスカートを手に取る銀色さんに顔をひきつらせながらたずねる。

いや、あの、ピンクも相当ハードルが高いのよ?




「あの人は寮にいると思いますが、」




何か用がありました?と首を傾げる銀色さんにううん、と曖昧に首を振る。

いや、なんてゆーか、かんてゆーか。

何と言ったものかと口ごもる。

こういったところは本当に日本人気質をまだ持っているのだなと再確認するが、それはともかく。

綺麗な銀色の子犬が見上げてくるのに負けて息を吐く。




「いや、珍しいじゃない。銀色さんがあの子と別行動って」

「そんな四六時中一緒にいるわけではありませんよ?」

「でも、あたしといる時はいっつもセットだったじゃないよう」




幼い子どもに言い聞かせるような口調の銀色さんに思わず口を尖らす。

あたし、一応銀色さんより年上なんだけどなあ。

ちゃんとした大人だとは言わないけど、銀色さんの方が精神年齢は高そうだけど、




「嫌でした?」

「まさか!」




目に見えてしゅんとする銀色の子犬に慌てて首を振る。

再三言うが、嫌ではない。

真意が見えないだけで。

それが気持ち悪いのだ。




「こーゆー時ってリィも天使も、下手したら猫すけさんやら黒すけさんやらも一緒だったりするじゃない?だから、」




本当に買い物だけならみんなで行けばいいのだ。

それを何故か鬼気迫る勢いの銀色さんと二人きりってのは、何だかおかしい気がするじゃないか。




「・・・・リィは本当は来たがってましたけどね、少し用事があるんです」

「そう、」




ちょっとだけしゅんとしている銀色さんの顔を覗き込む。

危ないことしてなきゃいいけど、と思いつつ、銀色さんがここにいるのにそこまで酷いドンパチはしないか、と思い直す。




「で、何でそんな怖い顔であたしの服を選んでるの?」

「・・・・怖い顔してましたか?」

「してましたね」




思いっきり。

猫すけさん絡みで何かあったのかと思うくらいには。

正直に頷くと銀色さんがよりしょげた。

あ、ごめん!何かごめん!




「すみません、ドミ。嫌な思いをさせましたか?」

「してない!してない!」




ああもう!どうしたら!

内心頭をかきむしりながら銀色さんの前であわあわと手を振る。

本当に銀色さんと二人きりなんて、それこそ銀色さんが初めて家に来たときに部屋を案内した以来だ。

仲が悪いとか嫌いとかでは全然ないし、大事な弟三人目だと思ってはいるが、如何せんそんなに深く話したことがないのだ。

猫を被って生きてきた身としては素でのコミュニケーション能力は高い方ではないので困ってしまう。




「でも、本当にどうして突然?」




振った手をどこに持っていくか悩みに悩んで艶々した銀色さんの頭に乗せた。

金色狼の波打つ金髪とは違い針のように真っ直ぐの髪は羨ましいほどサラサラだ。




「・・・・・・・・ドミは、」

「うん?」




ゆっくりと口を開いた銀色さんを促すように頷く。




「お洒落、しませんよね」

「・・・・・・・・うん、はい」




えーっと、

ひきつるのを隠せていない頬を物理的に手で覆う。

まさかここであたしの女子力のなさを指摘されるとは思ってませんでした。




「あ、あの!違うんです!そういう意味じゃなくて!!」




非常に慌てる銀色さんを見て小首を傾げる。

いや、女子力はないんですけどね、本当に。




「一般的に女性たちは着飾るのが好きだと思うんですが、ドミは、その、」




ちらりと銀色さんの視線を追い自分の格好を見る。

ジーパンにシャツの上にカーディガン。

これをベースに暑くなったら脱ぐし、寒くなったら着膨れる。

まあ、安定の格好である。




「まあ、流行は追いかけないわね」




良くいえば、どこぞの無印な良品店のマネキンをそのまま着てるような。

悪くいえば、喪女的な。

まあ、お洒落やモテからは遠い位置にあることは理解している。




「それが、ドミが好きでやってるならいいんです!でも、もし、それが、」




自分たちのせいならば、そう呟きぎゅっと唇を噛み締める銀色さんは先程とは違い、まるで本当に13才の少年のようだった。




「んー、」




艶々のサラサラな銀色さんの頭をもう一度撫でた。

実はある程度清潔感のある格好であるならばいいと思っている。

そう、正直服装に興味がない。

恋愛対象が同年代ではありえないあたしは、綺麗に見られたいとか、好きになってもらいたいとかで着飾る習性がない。

田舎とはいえ州知事の娘で、公の場ではそれなりに着飾る事もするが、それでなくても年頃の娘は危険が多い。

どんなに安全な連邦大学なんて惑星で暮らしていても、世界の絶対が絶対でないことを知っているあたしはそういう警戒を解かずに生きてきた。

現代からの癖でもあるのだけれど、スカートもヒールもいざという時に走りにくいから嫌いだ、と言ったら銀色さんは悲しい顔をするのだろうか。




「全然、銀色さんたちのせいじゃないのよ、これは本当に」




何と言って良いか分からず頭を撫でながら言葉を探す。

そういった意味で、そこそこ可愛いドミューシアがそんなに目立たずにすんでいるのは金色狼たちのおかげだ。

無論、あいつ誰だよみたいな意味では目立つのだが、みんなの美しさに霞むあたし、最高だと思う。




「わたしは、わたしたちのせいで、ドミがあんな言われ方をするのは我慢なりません」

「あ?あー、あれかぁ」




ここでもお前のせいかロッドだかフットボールの優勝者の野郎め。

思わず舌打ちをしそうになって唇を噛む。

もう金色狼にコンパンにされればいいのに。




「ドミは可愛らしい女性です。見る目のないものは放っておけば良いと思いますが、いらぬ誹謗中傷は我慢なりません!ですから、ドミ!!」 

「ぅはい!」




喋りながらヒートアップした銀色さんが頭を撫でていた手をがしぃいい!っと取った。




「見返してやりましょう!!」

「・・・・・・・・えーっと、うん、はい、」




あの、お手柔らかに、という言葉は銀色さんの耳には入っていないようだった。







 


おまけ




後日




「あ、あの!ドミューシア・ヴァレンタイン?」

「はい?」

「あの、オレ、君に謝りたくて!!」

「はあ・・・・」

「君が、その、こんなに可愛いなんて知らなくて!」

「はあ?」

「それで、その!もし君が許してくれるなら!」

「おい、そこの礼儀知らずに恥知らず。どけ」

「あ、リィ」

「うわ!な、何をするんだ!!」

「ドミの可愛さに今頃気付いても無駄です。全く節穴にも程があります」

「あ、銀色さん」

「ちょっと揉んでやる。こい」

「ちょ、お前誰だよ!オレは今彼女と・・・・お前、お姉さん、いるか?」

「チッ。本当に叩きのめされたいのかお前」

「お願いします、リィ。やっちゃってください」

「えっと、・・・・・・・・・・・・・・で、今の誰?」

「知らない人ですよ。嫌ですね不審者って」

「あー、・・・・うん、そーだねぇ」




銀色さんには逆らわないが吉と心に決めた瞬間だった。







日常的に、そこそこ可愛くされました、とゆー話(笑)

前回の続き的な。

銀色さんのターン!

金色狼は19歳女子になってます。

別行動させてみました(笑)

コメントでもいただきましたが、間違いなく新刊のお嬢さんとはマブダチになれる気がします(笑)

ちなみにドミはお坊さんと握手はしてもしなくてもどっちでもいい派です(笑)たぶん。

頼まれたら協力を惜しみませんが、積極的にはいかないんじゃないかな?

星認定のドミがどうお坊さんの彼と関わるのか、楽しみです(笑)

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