夢と幻想。

リアルと虚構。

熱と汗。

思考と言葉。

大きな歓声と共に、幕が降りていく。





15歳、お客様。





「・・・・・・・・・・つ、」

「どうしたの?ドミューシア・ヴァレンタイン?」

「・・・・・・・・・・つかれた」

「・・・・・・・・・・終わって第一声がそれなの?」




飛び上がり泣き出す子たちがいる中、そーっと膝をつき遠い目をしたあたしを安定の委員長が軽く頭を小突いた。




「誰のせいだ、誰の」

「台本これで良いって言った人のせい」




ケロリと返す委員長に言葉を返す元気もない。

一ヶ月間、みっちりとした稽古が今、一時間と少しの時間をかけて終わった。

演劇なんてしたことなかったけれど、ある意味大きな猫は被って生きてきた過去もあるので楽しかったし、悪くなかった。

ただ、思いの外疲れたのでもういい。

誰だ、アクションとラブとコメディとシリアス混ぜた奴。




「あたしか」

「あ、あの、ミス・ヴァレンタイン、お客様が、」




思わず肩を落としていると、舞台では見事ヒロインを演じきったマドンナがおずおずと声をかけた。

何でこの子はこんなにおどおどしているのか。

何かしただろうか?




「ありがとう、マドンナ」

「あ!う、ううん!何でもないの!!」

「何でわざわざヒーローモードなのよ、ドミューシア・ヴァレンタイン」




これか。

お礼とついでに彼女の髪を撫でた手を思わず見つめる。

つい彼女の前で宝塚化するこれがだめなのか。

別にわざとやっている訳ではない。

ただこのTHE宝塚男役みたいな衣装で女言葉も似合わないし、ついそーゆーモードになっているだけで癖になっている訳ではない、と思う。




「ドミ」




聞きなれた弟君の声に振り向くと美少女なメイドが立っていた。




「おっふ」

「ドミ、どうしたんです?」

「ごめん、銀色さん。何か動揺が口からぽろりと」




楽屋口に集まる人だかり。

それは間違いなく金と銀の美少女メイドのせいだ。

目が潰れそうな神々しさをありがとうございます。

あまりにも美しくてお姉ちゃんは不安になりますよ。

不貞の輩が写真でも撮っていたらどうしてくれよう。

全力で社会から叩き出してやる。




「で、何でメイドなの?」

「うちのクラスの出し物。着替えるのも面倒で」

「良い宣伝にもなりますし」




この年頃の男子の発言とは思えないがこの二人的には通常運転といって差し支えない。

似合いませんか?と小首を傾げる銀色さんに絶賛を送る。

びっくりするぐらい似合っている。




「で、パパたちは?」

「まだ客席」

「ルウとちょっと・・・・」

「ああ、かち合っちゃったわけね」




子煩悩アーサーの事だからそれこそビデオまわして永久保存版とかやるんじゃないかとひやひやし、しかも楽屋に来て号泣とやりかねない。と警戒していたがその前に天敵間男天使と遭遇したらしい。

相変わらずアーサーと天使は相性が悪い。

こればっかりは手の打ちようというかがない、というよりはてめぇのケツはてめぇで拭け精神でいこうと思っているのでノータッチ。

大人は自分で何とかしろ。

まあ、天使はあんまり大人ではないのだけれど。




「よう」

「格好良かったぞ、ドミューシア!」




そんな悪いことを考えていると高いところから頭を撫でられた。

普通に見上げて胸辺り。

ぐっと反って始めて顔が見える。




「ミスター!ジャスミンさん!」




黒と赤の怪獣夫婦だ。

こんなところで会えると思っておらず思わず笑顔になる。

しかしどうしてここに?と聞こうとしてハタッと自分の顔が凍るのが分かる。

そーいえば文化祭の話もあったようなって、メイドの金銀天使で金色狼の初体験の相手が来る話あったななんて思い返しつつ、それよりも何よりも、もしかして、




「・・・・・・・・・・・・観ました?」

「ああ、なかなか様になってたぞ」




男前の女王様のお返事に思わずしゃがみこんだ。

恥ずかしい!いろいろ恥ずかしい!




「珍しいな、ドミがそんな風に動揺するの」




何だか少し不満げな金色狼の言葉に返事をする術を持たない。

いわばキングは親の世代なのだ。

そして女王は同世代。

その彼らに見られた文化祭の劇、ヒーローバージョン。




「っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、」




小声で呻く。

恥ずかしいんだよ!いろいろ!繊細なお姉ちゃん心をくんでほしい。




「っ、わ!」

「よ!姉御!観たぜ〜!なかなかの男前じゃあねぇか!」




そんな傷心中のあたしを空気を読まず、物理的に持ち上げくるりと振り回した人物がいる。

こんなアホは一人しかいない。




「猫すけさん!下ろせ!」

「興味深い文献だった」




その隣に真剣にパンフの参考文献欄を読んでいる黒すけさん。

笑いながら話を聞かない猫すけさんはあたしを物理的に振り回し、黒すけさんはそんなことを関係なしにネタ本の話をふり、それにキレる銀色さんと若干不機嫌な金色狼。

何このカオス。




「流石目立つわね、ドミューシア・ヴァレンタイン」

「好きでやってんじゃない!」




遠巻きでコンメントを寄越す委員長に大声で返事をし、猫すけさんから脱出しようともがいていると女王に助けられた。

流石紳士!でも恥ずかしい!




「あの脚本、考えたのはどなた?」




女王にお礼を言おうとした時、突然知らない女性に話しかけられた。




「え、っと?」




年の頃は四、五十辺り、髪を後ろに撫で付け一つにくくり神経質そうな痩せすぎの女性。




「あなた?」




無遠慮な視線は見るものを萎縮させる。

気持ちの良いものじゃない。

お客さんの一人であるには変わらないが少し不快になって、でも何かに気づいて首を傾げる。

何かおかしい。




「ちょっとあなた。話聞いてるの?」




このタイミングで、この派手な軍勢に怯むことなく声をかけられる人がいるだろうか。

この超豪華な迫力美男迫力美女、美青年美少女(少年)には目もくれず、

ちらりと女王を見る。




「どうした?ドミューシア」




何てことない顔をして、あたしを見下ろす。

その顔。

そしてその隣の冴えないおばさん。

もしかして、もしかして?




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・申し訳ありません、少し、驚いてしまって」




頬がひきつるのが分かる。

それでも何とか笑みらしきものを作ると、女性はピクリと眉を上にはね上げ、キングと女王と面白そうに顔を見合わせた。




「脚本を書いたのは、あの、眼鏡の子です」

「あなたの名前もあるようだけど?」

「あたしはネタを提供しただけです。後、読んで感想を言っただけで、」




少し面白くなってふにゃっ顔が緩んだのが分かった。

銀幕の天使に会えた。

それも嬉しいのだけど、

何だか本当に自分が中学生になったようで、

本当に中学生なのだけれど、

家族と友だちに劇を見てもらうなんて、くすぐったくて、思わず笑った。




「書いたのは彼女。良かったからお声をかけてあげてください。きっと喜びます」

「・・・・あなた、」




そう呟いた時にはもうそこには冴えない中年のおばさんなんていなかった。

この異色の軍団に負けない、美とオーラ。

銀幕の天使、ジンジャー・ブレッド。

その迫力に思わず息を飲む。




「この子の姉だっていうからどんなのかと思ったら、案外普通ね」

「一般人ですから」




とてもじゃないが怒る気になんてなれない。

苦笑しながら頷く。

幼少期から見ていたジンジャー・ブレッド。

デビュー作を診て、このクソ映画が女王と大女優の出会い!とかうふうふしていたのはいい思い出だ。




「でも悪くないわね、その度胸と洞察」




ニヤリと人の悪い顔で美女が笑った。

一瞬背筋が凍る。




「演技はまだまだだけど悪くないわ。本格的にやりたかったら声をかけなさい」
 





そう言うと一瞬にして冴えない中年のおばさんに戻り、委員長に声をかけに行った。




「・・・・・・・・・・えー、と、?」

「気に入られたみたいだな」




ぽん、とキングがあたしの肩を叩いた。

なんてゆーか、かんてゆーか、




「・・・・・・・・・・あんまり、嬉しくありません、ミスター」







おまけ





「本当に似合ってますね、ドミ」

「銀色さんも似合ってるよ〜」

「私は、仕事でしたから。こういう格好はドミの方が似合いますよ」

「止めてよ、柄じゃないわ」

「いや、似合うと思うぞ」

「ちょ、リィ、」

「何だ?姉御もメイド服着るのかい?」

「着るわけないでしょ猫すけさん。この格好でじゅうぶ」

「やあやあ、皆さん始めましてこんにちは、マリー・アポットです。それはともかくこんなところにメイド服が」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「えいっ☆」

「委員長てめぇぇぇぇえええええ!!!!」



惑星一やさぐれたメイドが誕生した瞬間でした。






誰か宝塚なドミとやさぐれメイドなドミを描いてくれまいか(笑)

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