いつもの通りの休憩時間、




「ミス・ヴァレンタイン!貴女にお願いがあるの!」



本に目を落としたまま条件反射の言葉を口にする。



「弟たちには取り次ぎませんよー」




トン、




机に置かれた指先は見慣れていないが見慣れた黄色の肌。




「大丈夫、用があるのは貴女にだけよ?ミス・ヴァレンタイン」




誘われて見上げたその人は、

肩で揃えた黒髪をその指で払い、

黒縁眼鏡をくっと押し上げた。




「手伝って欲しいことがあるのよ」




どう贔屓目に見てもニヤリとしか見えない獰猛な笑みを浮かべて彼女は笑った。







十五歳、クラスでのこと。








マリー・アポットと名乗った彼女はどうやら同じクラスらしかった。

らしかったと言うのはついぽかんと見上げているうちに休憩時間が終わり、また後で、と机に戻って行ったからだ。

クラスメイトの顔も名前も覚えてないってどんだけだ。

編入して結構たった気がするが、それどころじゃなかった、と自分を慰めておく。



「あたしに、用、ねえ?」



あの宇宙での一件からしばらくバタバタしていたが、それ以降何の変化もない普通の日常を過ごしていた。

怪獣夫婦と知り合おうが、伝説の船に乗ろうが浮き立つ心は日常には影響しない。

相変わらず図書館で黒すけさんと本を読みつつ、たまに猫すけさんに絡まれ、お昼弟はたちと一緒に過ごし、そんな何気ないようなずいぶん濃い日々が日常化している、そんな矢先の事だった。



「クラス演劇の、台本?」

「正しくはそのネタ捜し、よ」



連れていかれた食堂で珈琲を飲みながら彼女はそう言った。



「今度の文化祭でうちのクラスで演劇をやることになったのは知ってるでしょう?」

「・・・・・・・・・・うー、ん?」

「・・・・・・しっかりしてちょうだい、ミス・ヴァレンタイン」

ため息と共に吐き出された言葉が胸に突き刺さる。

金銀黒天使たちに言われるならともかくも、中学生のお嬢さんに言われるとか、がっかり感が半端ない。



「貴女にその題材捜しを手伝ってもらいたいのよ」



つまり、うちのクラスで演劇やることになったはいいもののピンとくる物がなく、だったらいっそ書いてみようかって事になり、男女共々楽しんでやれてお客さんも喜ぶようなものがやりたい、と。



「そんな都合のいいもんあるかい!」

「だから、貴女に頼んでるんじゃない」



アホか、と吐き捨てるあたしにニッと彼女は笑う。 



「ミス・ヴァレンタイン、貴女が図書館に通ってるの知ってるわ。それもかなりマニアックな本を読んでるのも」



くいっと黒縁眼鏡を押し上げる指はやっぱり、見慣れていないが見慣れた象牙色で、



「私一人じゃ無理だわ。でも貴女と一緒なら良いものが出来そうな気がするの」



彼女の黒髪をさらりと風がさらった。



「何で、そこまで頑張るの?」

「何でって、」



そう尋ねて、まるで思春期の子どものような質問だったと内心恥じる。

調子が狂う。

けどそれは決して嫌なものではなくて、



「中等部最後の文化祭じゃない?みんなといい思い出にしたいのよ」



そう笑う少女は向こうで別れた友にも似ていて、



「それに私、委員長だし!内申かかってるしね!!」

「おおっふ、うんうん、いいと思うよそーゆーの、しっかりちゃっかりしてて嫌いじゃない」



ぎゅっと拳を握った彼女に苦笑がもれる。

良く良く見れば青みがかった髪に、灰色の瞳、彫りも深く、日本人では有り得ないのだけれど、



「いいね、協力するよ。委員長」





たまには青春するのもいいんじゃない?





「よろしく頼むわ、ミス・ヴァレンタイン」



獰猛に笑う彼女八重歯が可愛くて、ふっと笑った。




「こちらこそ、よろしくね」

「っ・・・・・・・・・・・・流石、あの目立つ子の姉だわ、ミス・ヴァレンタイン」

「委員長?」







そうなの、ドミューシア、まあまあ可愛いの!(笑)
そしてオリキャラしか出ていない(笑)

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