どこまでも緊張感のない猫すけさんと、
どこまでも真面目な顔だけは崩さない黒すけさんと、
どうしても血管切れそうな銀色さんを、
見送って、
初めましてとお久しぶりの挨拶をしましょうか?
15歳、怪獣夫婦。
「君は行かなくて良かったのか?」
餞別、餞別とうるさい猫すけさんをリィに言いつけますから、の一言で銀色さんが黙らせ、
無言のプレッシャーを与えてくる黒すけさんにあたしが負け、
三人にバグを贈り(全力で遠慮、というか拒否してきた銀色さんに若干凹んだがやっってやった。完全にセクハラな気がしなくもない)
三人を送り出したところで、キングに声を掛けられた。
声に労りを感じるのは金色狼との一件を見ていたからか、今までのファロット組との一件を見ていたからか。
気分は幼稚園に送り出すお母さんでした。
「あたしは完全に一般人なんです、ミスタ」
全く戦えません。戦いません。戦う気もございません。人には向き不向きがございますから。
そんな気持ちを含めて、あははと笑う。
改めて見上げたキングは、あの時出会ったミスタ・クーアとは確かに少し顔が違う。
こちらの方が凄みがある美男子だ。
見た目の年の頃は三十前。
それでも彼には七十過ぎまで生きた知識と経験が詰まっている。
ケリー・クーア。
キングで、海賊で、総帥で、天使の友だちで、この空を生きる人。
口元が緩むのが分かる。
「ミス・ヴァレンタイン」
少し固めの声がかかる。
燃えるような髪と大きな体の迫力美人。
あたしが生まれた頃にはまだ眠っていた彼女。
年の頃はキングと同じ。
確か天使が少し若返らせたとかなんとか。
初めて会う、キングとこの船が求めてやまない女王陛下。
ジャスミン・クーア。
女王で、心が強くて、大きくて、暖かくて、優しくて、純粋で、キングと対をなす人。
胸に広がるこの思いには覚えがある。
「ドミューシアで構いません。ミズ・クーア」
「では、私もジャスミンと」
豪胆な彼女にしては歯切れ悪い。
先程のあたしの顔色を見て色々考えくれているのだろう。
「ドミューシア、君はあの子の、血の繋がった姉なのか?」
「弟は美の女神の加護を受けているもので」
マジで美しいでしょう、うちの子!いつも可愛いし綺麗なんだけど、さっきの大人バーションは凄かったでしょう!!王妃バーションなんて鼻血が出るわよ!!!
と、本音を言うわけもいかないので詩的に留める。
従兄弟殿と幼馴染み殿に言われてキレた覚えもあるが、女王陛下に言われても腹が立たない。
それって人徳だと思う。
そんな懐かしく酷いことを考えていたらキングが大きな手で頭を撫でた。
「そうか、仲良くやってるんだな」
「もちろんです、ミスタ」
久しぶりの子ども扱いがくすぐったくて肩を竦める。
「知ってるのか?」
「ああ、昔な」
彼女は覚えていないだろうが、と言葉を続けるキングにあたしは首を横に振る。
「覚えてますよ、ミスタ」
あたしの頭に手を置いたまま固まるキングを見上げにこやかに笑う。
「パーティーではお世話になりました。改めてお久しぶりです、ミスタ」
「な、」
絶句、というか何というか、びっくり顔のキングとかレアだと思う。
パシパシパシと夫婦間で視線が飛び交うのを見ながら、流石いいコンビだなあ、なんてウキウキする。
困惑させておいて何だが。
「パーティーというと?」
「俺の総帥時代のパーティーだ。・・・・俺が誰だか分かるって?」
「はい、あの時のお約束がこんな形で叶うとは思っていませんでしたけれど、」
もう少し平穏な感じで会いたかった。マジで。
「本当に貴女覚えてるの?」
「うお!」
シュンッと機械音と共に表れた画面とその中の美人に思わず驚きの声を上げた。
金髪碧眼の美女。
この伝説の船の、伝説の彼女。
ダイアナ・イレブンス。
別名クレイジー・ダイアン。人の脳から作られた人工知能、速く飛ぶ事だけを求めながら、とても人間らしい船の彼女。
浮き足立つこの感じ。
分かってる。
この感情は、完全なるファン根性だ。
「確か貴女四、五才ぐらいだったわよね?覚えてるのは構わないわ!構わないけど、ケリーは七十過ぎてたのよ!?それを同一人物だって言い当てるって、彼が今若返ってる事に対しては!?どういう認識なの!?」
「え、いや、まー、この世界には色んな人がいますから」
金銀黒天使、猫黒、そもそもラーの人たち、ついでに自分も入れれば、ちょっと若返るとか死んで復活とかもう珍しくも何ともないってゆーか、もうよくあることってゆーか、
いや、何か毒されてきてるのか?あたし。
思わぬ勢いで金髪美女に画面から迫られたじたじする。
「あの綺麗な子たちと一緒にいるとそうなるのかしら?」
そうって、何ですか。そうって。
自分だって結構非常識な存在なのに、と思わずツッコミそうになるが自己完結しているところをつついてアグレッシブにする必要はないだろう。
元日本人根性を発揮して曖昧に笑うに留める。
「そうか、あの時の小さなレディがこんなに大きくなってるとはな」
「ミスタの膝にも届きませんでしたものね」
驚きを引っ込めいろいろ納得してくれたらしくキングにもう一度頭を撫でられ、思わずはにかむ。
こんな風に頭を撫でられたことはほとんど覚えがない。
幼少期からしっかりし過ぎた子どもだったし、気を張っていたのもある。
生きることに、自分であることに、必死だったからかもしれない。
「おい海賊、まさか他所様の子を蹴鞠にしなかったろうな?」
「するわけないだろう、あんたじゃあるまいし」
「私だって他所様の子にはしない!」
「自分の子にもしないわよ?普通はね」
三人の掛け合いに笑いがもれる。
ああ、良かったな。
素直にそう思う。
後悔することも多くあるけれど、
出会えて良かった。
生きていて良かった。
「ねえミスタ、また聞きたいことがあるんです」
「なんだ、また質問か?小さなレディ・ドミューシア」
昔のように呼ばれくすぐったくてまた笑う。
あたしはよく笑うようになった。
それは全て、出会ってきた人たちのおかげ。
「地球、と呼ばれる惑星を知っていますか?」
この広い広い空のどこかにあるかもしれない、昔の故郷。
少しの哀愁と望郷と興味本意。
「チキュウ、?分かるか?海賊」
「いや、・・・・ダイアン?」
「名称だけじゃ難しいわね、座標がなくちゃ」
首を傾げる三人に気にしないで、と笑う。
「もしも、でいいんです」
「地球と呼ばれる惑星、日本と呼ばれる国、平成という時代」
「もし、耳にしたら教えてくれませんか?」
こんなに幸せに生きてきた、あたしの最後の心残りなんです。
「ところで海賊、お前いつまでドミューシアの頭を撫でてるんだ?レディに失礼だぞ!」
「とか言いつつその手は何だ、女王」
「私はいいんだ、女だからな!」
「こんな時ばっかり主張しやがって、」
「事実だからな!」
「彼女、目を回してるけど、いいの?二人とも?」
実は、書き終わってから気づいたんです。
いろいろ時間軸がおかしいって!
いや、うん、もう勘弁してください・・・・(笑)
書きたい事は書けたので満足です。
元々かぁこに整合性とか求めたって無駄なんだから!←開き直り。