「お願い!」
「ごめんねぇ」
「頼むから!」
「すみません」
「紹介だけ!」
「いや、紹介が無理なんで」
「友達でしょ!?」
「いやいや、初対面ですはじめまして」
美人の威力パネェ。
15歳、新生活のこと。
毎日四、五人はお願いがくる。
毎日違う顔だ。
そして毎日結構な人数があたしと金色狼を比べにやってくる。
転入して二週間、早くもぼっちの香りがするが、それはそれで楽しいのであまり問題にしていない。
金色狼目当ての奴は友達にならない事にしてるのでどうでも良い、興味なし。
「よっと、」
限界まで借りた本と鞄を持ち、図書館へ向かう。
この図書館は最高だ。
デジタルの情報書籍もあるしマニアックな本も山のようにある正に理想郷。
中高一貫な上に大学もあり、惑星一つが学校て!なところなので勉強し放題だ。
何か某魔法学校のハー子みたいになってきているが、別に勉強が好きな訳じゃないし、成績は普通だ。
ただ、知らない事を知るのが好きだ。
いつ人類は宇宙に出たのか?
生命体は何種類いるのか?
銀河の果ては?
惑星の数は?
地球は?
ワープって何?
ステーションて何?
ゲートって何?
何とかドライブって何?
この世界の常識や歴史があたしにはちんぷんかんぷんだ。
だから、とても興味深い。
アーサーの読みは当たりで、ぼっちな事を除けば何の問題もなしだった。
「でもまだアーサーとは喋ってやらん」
あたしの決意は固いぞアーサー。
そんな独り言を呟いた時だ。
「うあっ」
肩に掛けた鞄がずるりと滑る。
重みがずれて体勢を立て直そうしたのが悪かった。
抱えた本もついでにずれて右に傾ぐ。
踏ん張ろうにも鞄と本が見事にあたしの邪魔をした。
「げ!」
本が、と思わず本を守ったので盛大にすっ転ぶ羽目になった。
「およ?」
と思った。
「・・・・大丈夫か?」
実際には大きな腕に抱き止められ、宙を飛んだと思った本も無事に誰かが救出してくれていた。
「あ、りがとう、」
「いや、」
あたしを抱き止めていたのは黒髪のイケメソでした。
これなんて乙女ゲー?
「助かったわ、本が駄目になるかと思った」
古い本だから脆いのよね、と言いながら鞄をかけ直し本を持ち直す。
ありがとう、と彼の持っている本を受け取ろうと手を差し出すが、イケメソ君しばし無言。
「・・・・何?どうしたの?」
「・・・・本が心配だったのか?」
「あたしは転んでもしばらくしたら治るけど、本は破れたら治らないでしょう」
優しく諭すように答えるとイケメソは無言であたしの腕の本を半分以上取り上げてため息をついた。
「運ぼう。目的地に着く前に流血騒ぎになりそうだ」
「図書館よ。それに、そうね、本に血が付くのは御免だわ。ありがとう」
自分でもどんだけ本が好きなんだと思う発言をしつつ、イケメソと並んで廊下を歩く。
脚が長いから歩幅も広いんですね、なのに歩くペースが一緒というさりげないモテ技ですね、わかります。
「君は、この辺りの生徒か?」
「中等部よ、最近転入したの」
角を曲がるとイケメソが話しかけてきた。
そんなに社交的じゃないと思っていたのに。
「・・・・じゃあ、君があの」
「何がじゃあ、で何があの、かは詳しく聞かないでおくわ。あたしの為に」
待て、どこまで話が広がっているんだ。
まさか他校の生徒まで知られていたらと思うとぞっとする。
あの子たちはよくこんな生活送っていられるな。
それも美人に生まれた者の宿命か。
でも大丈夫、ドミューシアまあまあ可愛いから。
「嫌か?」
「客寄せパンダは御免よ」
それだけイケメソな君だ、分かるだろう?と視線を送ると何だか珍しいモノを見るような視線が返ってきた。
だからその扱い嬉しくないっつの。
金色狼も、銀色さんも、天使も、君も、どいつもこいつも。
「君は、なかなか変わって、いや、貴重だな」
「言葉変えりゃいいってもんじゃないわよ坊や」
「俺は高等部なんだが、」
「男なんて幾つになっても坊やよ、ってママが言ってたわ」
嘘だけど。
図書館に着き、本の返却手続きをする。
彼とはこれでお別れだ。
「君は、いつもここにいるのか?」
「大体ね、いつもじゃないわ」
お気に入りの窓際の机に鞄を置いて、椅子を引く。
彼が目の前に座るのを見届けてから口を開く。
「ドミューシア・ヴァレンタインよ」
「ヴァンツァー・ファロット」
「よろしく、黒すけさん」
「パンダが嫌になったら此処に来たらいいわ」
「・・・・因みに、パンダとは何だ?」
「・・・・ジェネレーションギャップで胸が痛いから自分で調べて頂戴」