さあ、わたしたちの日常が始まる。
「ようこそ、金と銀の天使たち」
15歳、スタートライン。
まあ大変な一日だった。
金銀天使の登場で大興奮のデイジー・ローズを宥め(あたしによく似ていると金色狼が言ったが、まあ、あのテンションは確かに否定はしない)、
ダッシュどころかジェットて登場したアーサーは相変わらず人の話を聞かないし(既にそれが彼のチャームポイントかと思われる)、
バタバタしながら銀色さんに家の使い方を教えれば(やっぱり銀色さんにも自動ドアの驚きは理解してもらえず、彼曰く全てにおいて驚いてます、と)、とっぷりと日が暮れていた。
「と、まあこんなもんだと思うけど、」
分からなかったらいつでも呼んで頂戴、と笑えば少し恐る恐る声をかけられた。
なになに、獲って喰いませんよ。
「あの、ドミューシア様は、」
「ごめん、頼むからドミって呼んで。様なしで」
何かが吹き出るかと思った。
あっちではそんなに交流なかったけど、そうか、この子もそういえば子栗鼠さん属性の人だったと今更ながらに思い出す。
「ドミ、は、」
「はい?」
「人間なんですか、?」
「え?人間に見えない?」
それはかなり不安だが。
違うんです!と慌てる銀色さんを愛でつつ口を開く。
「アレでしょ?前と見た目が違うからね」
「それに、星なのですよね?」
「いや、それ認めてないから!全力否認中だから!」
それ言うなら銀色さんだって月じゃん、と口を尖らせば違います!と同じぐらいの否定が返ってきた。
「まあ、リィのお姉ちゃんで、ちょっと変わってるけど、本当ただの一般人だから」
「ちょっと?大分の間違いじゃない?」
突然聞こえてきた声に振り向けば、窓からふわりと浮かぶうちの弟。
デイジーが鼻血出しそうなほど金の天使っぷりだ。
言ってる事は失礼極まりないが。
「リィ!?」
「失礼な、君たちと比べたら最高に一般人じゃない?むしろ鏡」
「そもそも俺たちと比べるのが可笑しいんだって」
「確かに!」
「あの、」
朗らかに姉弟の会話を楽しんでいたら、それこそ恐る恐る銀色さんが口を開いた。
「リィが浮いてる事はよくある事、なんですか・・・・?」
「え?初めて見たけど?」
浮くぐらいするだろう?金色狼なんだから。
今更その程度で驚く事もない、とケロリと返せば金銀天使は顔を見合わせた。
「な?変だろう?」
「よく、あのお父様からお生まれになったな、と」
「え?何なの何なの?あたしそっち寄りなの?」
銀色さんまで酷くない?と主張するが二人の意見が覆る事はなさそうだ。
酷いと思う。
頬を膨らませるのは十五のあたし的に有りか無しか。
妥協して下唇をつき出していると、チョイチョイ金色狼が手招きをした。
「なぁに?」
ちょっとやそっとじゃこの傷付いたお姉様の心は癒せませんよ、とジト目で見ればにっこりと笑顔を見せる金色で天使な弟殿。
「ドミも飛んでみるか?」
「是非とも!」
「な?」
「なるほど」
「いいから!もうそのノリは!」
シェラも、と誘われ三人でふわりと窓から宙へ浮かぶ。
薔薇の香りが鼻をくすぐった。
「マーガレットがいるな」
「どこに?」
宙を浮かぶ金色狼が一点を見ながらそう呟いた。
が、全く見えない。
因みに銀色さんを見ても顔にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「ベンチ。お茶を用意してるからアーサーとデートかな?」
「流石、ラブラブねうちの親」
全く見えないが、彼が言うならそうなのだろう。
もう一人兄弟増えるかな、と言わなかったあたし偉い。
短い空中散歩を終え中庭に降り立つ。
月が冴え冴えと照らしていた。
「久しぶりだし、マーガレットに会ってくるよ」
「デートの邪魔しちゃダメよ」
言外に行かないと告げ、二人と別れる。
月明かりが影を映す。
何だか、不思議な気分だった。
「・・・・」
月が綺麗で、薔薇が咲いてて、
「・・・・」
リィがいて、シェラがいて、
「・・・・」
風が吹く、世界が動く、
「・・・・」
ああ、
「ありがとう、ママ」
帰る場所は、ここだった。
あの時、貴女の胸で泣いた時から、私は貴女の子どもでした。