男に戻った十九歳の金色狼は、
思わずガン見する程いい男だった。
25歳、ドミューシア。
「いいの?」
「何が?」
相変わらず天使の会話は主語がない。
銀色さんに世界を離れる意思確認の後、その瞳は私を映した。
眼下に広がるデルフィニアを見渡しながら聞き返す。
金色狼は最後の別れを王さまと。
私の別れはすんだ。
子栗鼠さんには泣かれてしまったけれど、彼女が居てくれて本当に良かった。
そしてもう一人、別れの挨拶を。
「このままの姿でいられるようにすることもできるんだよ?」
「あのね天使、」
少しパサついた髪、
黄色い肌、
黒い瞳、
低い鼻、
短い手足、
ハゲかけたマニキュア、
全てが愛しい昔の私。
「あたしはドミューシア・ヴァレンタインなのよ」
さようなら、あなたと過ごした時間を忘れないわ。
「・・・・おぉう、」
気付くと目の前には懐かしいハイテクな天井。
背中にはお気に入りのしっとりソファー。
まるで変わらない、あの時惰眠を貪っていた時のまま。
すくっと立ち上がり洗面所へ向かう。
「・・・・っ、」
自然と早くなる足。
相変わらずこの家は広い。
「・・・・ふ、」
アーサーがいなくて良かった、彼は行儀にうるさいから。
シュンッ!
相変わらず自動で開くドアをもどかしく抜けると目の前に見えた大きな鏡。
「・・・・ただいま、」
アーサー譲りの褐色の瞳、
マーガレットに似た明るい茶色の髪がふわりと背中を覆っている。
白い肌、
すらり長い手足、
おそらくこれから丸みを帯びる身体、
視界がさっきよりクリアなのは、今の方が視力が良いからだ。
「ただいま、あたし」
鏡に映った少女は、
照れくさそうに、
清々しく笑っていた。
「おねぇちゃん!!天使さまが!金と銀の天使さまが!」
バタバタと慌ただしい足音とデイジー・ローズの悲鳴が聞こえる。
「おっと!いかんいかん!」
いつまでも鏡を見る趣味はない。
せっかくいい男に育ったうちの弟はまた金色の天使に逆戻り、銀色さんも然り。
「その前に着替えだ」
流石に銀色さんの前で擦りきれたキャミソールとショートパンツは不味いだろう。
ぱちんっ!と頬を叩いて気合いをひとつ。
「さあ、暁の天使たちをお迎えしなくっちゃ!」
する事はたくさんある。
まずはみんなで遊園地だわ!