それは突然の訪問だった。
人生は突然の連続であるなんてとっくの昔に気付いてる。
それでも、やっぱり言いたい。
そんな馬鹿なっ!!
15歳のこと
「ドミ!!助けてっ!!」
長期休暇のある時。
楽しくまったり惰眠を貪っていた。
特に遊びに行く予定もなく宿題も終わり頭を悩ます課題といえば、おいおい高校どうするよ?のようなできれば先伸ばしにしておきたいようなものだけ。
そんな実に暇で楽しい時だった。
天使が文字通り空間を飛んできたのは。
「天使!!なになに!ちょっ!何!!どうしたのっ!?て待ってお願い頼むから!!」
「ドミューシア!あの子はどこなの!!教えて!!」
辛うじて涎を拭う間はあったものの天使の剣幕に押されなすがままにソファーに押し付けられる。
ちょ!アーサーに見られたら大変な誤解を生むからね!!
「ドミ!エディはどこなの!!」
「頼むからちょっと落ち着いて!!」
体の端から何か禍々しいものが出てきちゃってるからっ!!髪の毛の端がぐねぐね体に巻き付きに来てるからっ!!
完全にビビってはいるがビビってばかりはいられない。
「リィに何があったのっ!?ちゃんと説明しな!!」
「〜〜〜〜〜っ!」
天使に押し倒されたまま怒鳴り返すと突然瞳を潤ませ体を丸める。
「泣いたっ!?・・・・とりあえずおどき」
腹の上で泣くのはよして。
髪の毛髪の毛!首に巻き付けるのもよして!
ぐずぐず鼻を鳴らす天使に腹から退けて、というか床に転がり落とし巻き付く髪の毛をほどく。
非道と言うなかれ。
天使の勢いノリと勢いでくびり殺されるの御免だ。
彼の心情を表すように髪はざわざわと動き続けている様はまるで昔何処かでみたホラー映画に似ている。
来る、きっと来る。
「うわー」
何も知らないとかなりの恐怖映像だ。
でもまあ、天使だしな。
奇妙な光景にさっさと見切りを着けて未だ床で踞る天使に向き直る。
「で?リィがどうしたの?」
「・・・・エディが、どこにもいないんだ」
鼻を鳴らしたまま喋る天使はまるで迷子の幼子だ。
その天使の言葉に、昔日記に着けた時系列と淡い記憶がカチリとはまり一つの可能性を導き出す。
つまり、ピンと来た。
それでも一応先を促す。
「生きてるのは辛うじて分かるけど、この世界の何処にもいない!違う世界に落ちちゃったみたいなんだ!このままっこのままずっと会えなかったら!!やっと見つけたのにっ!!」
「てんし!てんし!!ギブキブ!!絞まってる!絞まってる!!」
死ぬ死ぬ!!マジで髪の毛で絞殺される!!
喋りながら興奮してきた天使の髪で死にかけました。
死ぬに死にきれません。
「お願いドミ!あの子の居場所を教えて欲しい。どんなにカードで占っても分からない!」
もう二週間になる、と項垂れる天使。
時系列には確かに合う。
あたしが知ってるわけないでしょ、と撥ね付けたりなんかしちゃったら、
「絞殺ですかね?」
「ドミ!!」
「ごめん悪かった、ちゃんと答えるから!」
髪髪髪!!
迫り来る髪を避けつつ天使に向き直る。
「でもさ、何であたしに聞きに来たのよ?」
それでも、簡単には教える気にならないのは今までの回避行動が無になるからだ。
月と新月と黒い太陽。
この三者が揃ったら、とずっと思っていた。
そうすれば、ガイア達は手が出せないはずだと、
そうすれば、主人公の姉とい立場を越えて彼らと居られる、
そうすれば、前世を覚えているなんて関係ない、
そうすれば、未来を知っているなんて関係ない、
そんな人生を送ることができるはずだと、
そう思っていた。
そう思っているのは今も同じ。
ただ、それを勝ち取るには、それ相応の努力と犠牲と誠意と、
何よりも愛が必要なんだと、
あたしはやっとそれに気づいたのかもしれない。
「カードではどんなに占ってもエディの事は分からなかった。でもその周囲を占った時に出たんだ」
天使は、ルウは、そっとあたしの前髪を上げ、そのまま額を撫でた。
「エディの周りにある小さな星の輝き、あの子を援助する者の兆し。これは君の事だよね、ドミューシア・ヴァレンタイン」
「あたしはただのお姉ちゃんよ」
ルウの言葉は何かの確信を持っていたようだった。
そんな大した者じゃないと、緩やかに首を振り、笑って否定する。
そしてきゅっと顔を引き締めた。
「ルウ、前も言ったね。あたしは、この世界を信用してないって」
こくりと頷く彼に促され、また口を開く。
「そっち関係はよろしく守ってね?非・一般市民に片足突っ込んだって、体は一般市民の中の下なんだから」
「ドミューシア?」
戸惑うルウににっこり笑い、額をこつんとくっつけた。
そして思い返す。
前の世、前の知識、前の本、前の記憶。
図書館で初めてあの本を見つけて読み進め、何度も何度も繰り返し読み、とうとう買い揃えた大切な本たち。
「リィは今、デルフィニアにいる」
デルフィニア、タンガ、パラスト。
中世ヨーロッパのような城、広大な土地、険しい山々、そこに住む人たち。
「リィはデルフィニア国にいる」
できるだけ詳しく、できるだけ鮮明に思い描く。
紙面上でしかなかったけれど想像した風景を、人を、国を。
ルウにしっかり届くように。
「見つけたっ!!」
かっと瞳を開くと天使はそのまま跳躍した。
その姿が消え、あたしはまた怠惰な休日に戻った、
と思った。
「いてっ!」
突然の衝撃。
一番始めに目にはいったのはがっしりとした顎、それから驚きに満ちた瞳。
健康そうな黒髪の上には漫画か絵本でしか見たことないような王冠が乗っかっている。
「・・・・っ、今、一体何処から」
叫んでもいい?
叫んだっていいよね?
あたしは四角い口のままこう言った。
「そんな馬鹿なっ!!」
ファーストコンタクトは王様のお膝の上。
今度こそ死んだかもしんない。