そうする他なかった。
ちっぽけなあたしでは。
12歳、祈る。
20時27分。
突風が吹いた。
それは強力な電磁波となって荒れ狂い、数分後にはこの星一体を駆け抜けた。
船の欠航、精密機器の破損、駅の閉鎖、事故、そんな速報が全ての情報媒体を駆け巡る。
またその数分後、最後の速報、停電の可能性を告げた途端に全てが闇に包まれた。
泣き出した弟妹をマーガレットに預けあたしは部屋に戻った。
手動でドアを抉じ開け暗闇の中、ほの赤く光る窓辺に近付いた。
窓の向こう、夜空の近くに禍々しい渦がある。
それの中心が赤く、時に白い閃光を放ち次第に大きくなっていく。
「・・・・リィ、」
あぁ、始まったと思った。
始まってしまったと。
コツンと窓に額が当たる。
きつく瞼を閉じても禍々しい赤が瞳に届く。
天使から連絡はない。
呼んでくれれば子守りにだって行った。
天使の力なら三日の船旅も一瞬だろう。
だから、
呼んで貰わなくては、子守りにも行けなかった。
金色狼に伝えた九時より早い時間から始まったという事は彼は待てなかったのかもしれない。
もしくは、事態はあたしが想像するより厳しかったのかもしれない。
噛み締めた歯茎が嫌な音を立てる。
無駄だったのかと吐き気のようにせり上がってくる自己嫌悪。
もっと、出来ることはなかったのかと弱いあたしが叫ぶ。
全てをさらけ出して彼を助けるべきだったと苦痛に耐えきれないあたしが糾弾する。
その度に、もう決めた事だ、と誰でもないあたしが呟く。
身の保身あっての行動だ。
先ずは自分を守る。
だだの脆弱な子どもが生きるには彼らに巻き込まれてはいけない。
特殊な力は何もない、ただのこまっしゃくれた子どもに過ぎないのだから。
異端であることを知られてはいけない。
利用価値があるなどと思われてはいけない。
世界は美しくも優しくもない。
汚く残酷で苦しい。
それでも、
「・・・・あぁ、」
世界を憎悪する程多感でなく、全てを愛する程が無知でもない。
「重い」
あたしはじっと渦の中心を見つめた。
早く、早く帰って来てと、
(まるで十二歳の子どもように。)
21時34分。
何事もなかったかのように世界にだけ日常が戻った。