サクッと甘いアップルパイ。
花の香りのお茶。
あぁ、何て素敵な午後だろう。
11歳、願う。
「遠慮しないでいっぱい食べてね」
おかわりもあるのよ、なんてお茶目に笑う天使に何て言うかもうノックアウト。
だって美し過ぎる。
アンティーク調というのか木のテーブルと天使って、何かいい。
しかも女性バージョン。
男性の時だって十分過ぎるほど美しいのに何かもう目が潰れそうだ。
「おいし!」
「ふふふ、よかったわ」
落ち着け落ち着けとアップルパイをいただいたら余計に神々しいビームをくらいました。
「あの、天使・・・・」
ペース乱されっぱなしだ。
何しにわざわざアーサーを泣かせてまで此処に来たのか思い出せ!幸せな午後を満喫しに来たんじゃないだろう!と自分に渇を入れフォークを置いた。
「あの・・・・何て言ったらいいか・・・・」
いざとなると口が渇き、顔が強張る。
「っ、突然、お邪魔しちゃってごめんなさい。えっと、・・・・」
手に汗が浮かんでズボンで擦る。
ああ、何か目が回ってきた気がする!
「大丈夫よ、少し落ち着いて?」
ほら、深呼吸して?と促され鼻から吸ってゆっくり深呼吸。
「・・・・これから言うことは、誰にも言わないで欲しいの」
少しだけ落ち着いて、あたしはそう切り出した。
「エディにも?」
あたしの真剣な様子に気づいたのか天使も姿勢を正し真面目な顔をしていた。
「あの子には・・・・分からない。時と場合によるかも。その、誰にもっていうのはね、」
そう、
あたしの誰にもって言うのはね?
「宇宙的な規模で、例え天使が脳みそ覗かれても気付かれないで、て事」
「ドミューシア、あなた・・・・何知ってるの?」
真面目な顔が突如、深刻な表情へと変化する。
あたしは少し目を閉じて、ぐっと力を入れて、また開いた。
「いろいろ。でも今はまだ言えない」
「どうして?」
「身の安全のため」
険しい顔の天使に額を寄せ、あたしは小さく低く話を続ける。
「あたしね、この世界を信用してないの」
ずっと感じていた不信感。
「ここはさ、科学が発展し過ぎてるよ。それなのに天使みたいな人もいる」
じっと天使の青い目を見る。
「あたしね、怖いの。異端であることが怖い」
初めて話す、やっと話せる本音。
「いつか誰かに見つかって、脳をかっさばかれるかもしれない。凄く怖い」
口が乾いてひきつる。
無理矢理唾を飲み込んで、掠れた声で言葉を紡ぐ。
さあ、ここからが本題だ。
「天使、そんなことがね、金色狼に、リィに、起きるかもしれないの」
「どういう、こと?あの子が、エディが誰かに狙われてるってこと!?誰に!!」
声を荒げた天使に思わず身を固くし首を降った。
「ごめん!詳しくは分からない!ただ、」
鋭い瞳をした天使にちょびっと以上ビビりながら必死に深呼吸。
「金色狼に何かあった時、迷わずあの子のところに行って欲しいの」
「もちろんよ、だって、」
「何があっても、よ?天使。何があっても、誰といても」
「・・・・ドミューシア、」
天使の言葉を遮り強く目を見たあたしに、彼女は口をつぐんだ。
「・・・・わかったわ、ドミ。約束する」
そして、しばらくあたしの目を覗き込んだ後、しっかりと頷いた。
「天使・・・・ありがとう」
肩の力が抜けて沢山息が吸えるようになった。
何だか一気に老け込んだ気分だ。
まあそもそも精神年齢はアラフォーなんだけど。
「ホント、何があるか分からないからこの話は全力で忘れてね、天使。あたしの夢は孫たちに囲まれて畳の上で大往生だから」
「本当に、変わってるわね。ドミって」
はーやれやれとお茶を啜ったあたしに天使がクスクスと笑う。
失礼な。
しかし、自覚があるため肩を竦めてそれに答えた。
「まあ、あの子のお姉ちゃんだからね」