「肋三本、右足と頬骨に鼻骨。うん、歯が折れてないのが御の字ね」
「・・・・」
「気を使ったのかしら?あの子」
「どこがだ!!」
アーサーご立腹。
まあ、当たり前か。
10歳、思い出す。
「まあまあパパ、そんなに怒らないでよ?」
「僕は怒ってなんかない!」
怒り方がチェインそっくりよ?って言ったらむっつりと口をつぐんでしまった。
うん、その顔はデイジーローズそっくりだ。
謎の知事襲撃事件は一週間たった今も世間を騒がせていた。
あの後救急車でアーサーが運ばれて警察が来てとマスコミも来て野次馬も来て、そりゃあもうてんやわんやだった。
金色狼は人に見られて面倒な事になる前にさっさと帰した。
一回見ると忘れられない顔はこんな時最高に不便だ。
それ以来家に来てない金色狼についてと今後の動きについて天使と話し合い必要がありそうだ。
意味深発言しちゃったし。
「ねぇパパ」
そんな天使と命の縮む交渉をする前に、
「あたしちょっと考えたの」
こっちでも出来る事をしてみる。
「・・・・何をだ?」
アーサーのベッドに肘をつきアンニュイな表情を浮かべてみる。
「あたしがリィみたいになってたらどうしたんだろうって」
「どういうことだ?」
よしっ!食い付いた!!
お馴染みのエドワードだ、という訂正もなくあたしを見るかわいいアーサーに内心でガッツポーズ!
勿論顔には出しません。
「もしも、もしもね?あたしが赤ちゃんの時に拐われてきた子で、」
喋りながら少し、余計な事を思い出した。
「今、突然知らない人が本当のパパとママだよって言ってきたら」
この世界に産まれたあたしはまさにそんな感じだった。
諦めと理解はあったけれど、
どうしようもない違和感。
「あたしは絶対に、アーサーとマーガレットの元に返してって言うと思う」
今も尚、
それは続いて、
「きっと、その人達も好きになれるとは思うけど、やっぱりパパとママとは呼べないと思う」
アーサーは大好きだけど、どうしても、
お父さんとは呼べない。
心からパパとは呼べない。
「・・・・な〜んてね、ちょっと、」
ごめんねアーサー大好きなの。
「考えた、だけ・・・・」
でもお父さんもお母さんも、あの二人だけなの。
地球というの日本という国に住む、あの冴えないふたりだけ。
「ド、ドミ!!どうした?どっか痛いのか!?」
「ううん、何でもない。パパが大好きって事!」
思わず溢れた涙を拭う。
えへへっと笑っても挙動不審なアーサー。
この人、あたしの言う事本当に分かったんだろうか?
まあでもここで、だめ押しひとつ。
「もし、リィの向こうのご両親が亡くなった時に死んでよかったなんて言ったり喜んだりする人、あたしだったら、一生パパなんて呼ばないなあ〜」
包帯だからけの顔を蒼白にする様子を見て、よしっと二度目のガッツポーズを取るあたしは邪悪だと思う。
(まあ、今更だけどね)