「来たよ」
八年ぶりに見た天使は、
やっぱり何か電波だった。
十歳のこと。
「貴様か!よくもうちの息子を!」
「あれ〜?約束だったから来たんだけどお邪魔だった?」
「警察を呼べ!ドミューシアっ!いや、俺がこの手で!」
想像した以上に酷いこの騒ぎをどうにかして下さい。
ほら、あたしの後ろで子ども達が怯えてますよヴァレンタイン卿よ。
まだかまだかと待ちわびたその日は突然だった。
本当に、何の前触れもなく、まるで親戚の家にでも遊びに来た様な気安さで天使と金色狼は現れた。
しかも、滅多にないアーサーの休日の朝を狙って、だ。
アーサーはアーサーでここであったが百年目みたいな顔をしている。
確か原作のドミューシアは全然弟を探さなかったのに〜とか言っていたが、まあ探すに探せなかったんだろうなあ、と複雑な男心を推測してみる。
それにしてもマーガレットもちゃんといるのにアーサーが緊急時にあたしを呼ぶのは教育の賜物だと思う。
とゆーか、ママの事をちゃんと分かってるねパパン。
「・・・・ぅっわぁお・・・・」
そんなことより、現状は結構な修羅場で呆けている場合ではないんだけれども、つい、可愛いパパの援護射撃の要請すらも、そんなことよりと言っちゃう程、金色狼は美しかった。
金色の髪、翡翠の瞳、真珠の肌、薔薇色の頬。
何、この適当でありがち過ぎる比喩表現。
「本気でバロックヒートとかいんのかな」
ちょー美しすぎなんですけど。
本当に同じ腹から生まれたんだろうか。
ちらりと腹の主を見ると丁度金色狼の頬にキスを贈っていた。
い、いーなぁぁぁああああ!!
「エディ、彼女が君のお姉ちゃんだよ。それから、約束の相手」
物凄く物欲しげな顔で見ていたのがバレたらしい。
天使が金色狼を手招きし、何だか可笑しな紹介をされた。
「君が?」
あたしを見る翡翠の瞳が少し、鋭い。
どうやら八年前の約束を天使が覚えていて、その約束が元でここに連れてこられた、とそんなところだろうか。
覚えていたならもっと早く連れてこいとか、あたしが全面的に悪い言い方止めて!とか色々言い分はあるが、今はそれはとどめて彼を見る。
困ったな、金色狼と会うのを楽しみにここまで乗りきったというのに。
あたしは少し、苦笑を浮かべ接触を試みる。
「えーっと、」
揶揄ではなく金色の狼と対峙するようなプレッシャーは止めてください。
しがない十歳児ですから!
原作ではもっと優しかったはずなのに、やっぱりちょいちょい余計な事をしたのが原因か。
怯むな、ここで逃げたら女が廃る!
あたしはぐっと下っ腹に力を入れて、翡翠色の瞳を見つめた。
「うん、そう。赤ちゃんの頃に一度だけ会ったことがあるけど、」
上手く笑えているだろうか?
ちょっと小首を傾げて相乗効果を狙ってみる。
「はじめまして。ドミューシア・ヴァレンタインよ。ドミって呼んで」
「お姉ちゃん、だっ!!」
うるさいアーサーはスルー。
こーゆーのは最初が肝心だ。
「リィだ。君がぼくに会いたがってたの?」
「エドワード、だろう!」
「パパちょっと静かにしてて」
あたし今狼と一騎打ちなんだから。
「ドミューシアっ!?」
ちょっと、その今にも世界が終わりそうな顔をするのは止めてください。
力が抜ける。
「ねぇ。家、案内するよ。奥に庭があるんだけど・・・・」
直訳すると、ここではまともに話せないから向こう行かない?だ。
「いいよ、行こう」
あっさりと頷いた金色狼にちょっとどころじゃなく緊張しつつ先導をきった。
「ドミューシアがっ!反抗期にっ!?いや、待て!エドワード話は終わってないぞ!」
「すっかり仲良しなのね、あの二人」
「うまくやっていけるといいけど」
「そもそも、貴様が!」
(大人組のエンドレスに付き合ってられるか!)
(あたし、今忙しいんです)