とある宿屋の薄暗い食堂、




「つまり、」




白い男と黒い男、




「どんなに美味しいミックスジュースの作り方を知っていても、」




からりと音をたてる氷、



薄く笑う瞳、




「ここからオレンジジュースを取り出すことはできない。そういうことですよ」




「やってやれないことはないけど、」




ぐわっし!




「その前にゼルガディス君いじめるのやめなさい」




調子のってるオカッパ魔族にこっそり背後からアイアンクローをかましてみました。













「ひいいいいいい!!!! 、さ!いだ!いだいでずうううう〜!!!!」

「痛くしてるもの」

「めり込んでます!!頭蓋骨割れます!割れます!」

「割れちゃう?」

「止めてやれ。・・・・何か、惨い」




リナちゃんとの旅の途中、体が鈍ったのでちょっと鍛練でも、と部屋を出たら怪しい白と黒のコンビがいたのでつい手を出してしまった(文字通り)。

優しいゼルガディス君のお言葉によりぱっと手を離すと半泣きの魔族が小さくうずくまっている。

前回、ついウキウキと本気で相手をしたせいか打たれ強くなってきている気がする。

あの部下SとL様の関係のようだ。

あそこまで傍若無人じゃない、はずだ。




「やれないことはないってどういう意味だ? さんよ」




ゼルガディス君が若干喧嘩腰で半信半疑なのは問題ない。大丈夫。

ちょっと邪魔な黒いのをころんっと転がして椅子に座る。




「その通りの意味よ」




四次元鞄から久しぶりの杖を出す。

桜だったか檜だったかの枝に、鵺か天狗かの何かが入った怪しいブツだ。

興味がないので聞き流していたがお店のお爺さんは、かなり癖の強い杖だがお主もかなり癖が強そうなので問題なかろうとか言われたことだけ覚えている。

癖も灰汁も強くなるわい、何回目のトリップだと思ってんだクソジジイ、と思っただけで言わなかった若かりし頃の私、偉い。




「なんだそれは?」




半信半疑どころか1信9疑ぐらいになったゼルガディス君の冷たい目を無視し、コップに向かって杖を振った。




「なっ!」




ゼルガディス君が驚きのあまり立ち上がった。

がたんと椅子が大きな音をたてたが他の客がこちらを気にする様子はない。

声かける前にしっかりと結界張っておいたのだ。

基本的に私たちうるさいもの。




「ミックスジュースだとつまりこういうこと」




杖を踊らせ目の前の液体を見る。

宙に浮く液体がゆっくりと四つの玉になり色が変わっていく。

なるほど、これはオレンジ、バナナ、リンゴ、ミルクのミックスジュースらしい。

各々の液体がぷかぷか丸く浮いている。




「な、どう、いう・・・・!」




ゼルガディス君はまだ驚きすぎて頭と口が回らないらしい。

その代わり復活したオカッパ魔族がちょこんとテーブルの端から顔を出した。




「流石 さん!何でもありですね!」

「ほめてるの?」

「もちろんです♪でもこれはミックスジュースの場合、ですね?」

「どういう、ことだ?」




これ事態はそんな難しい事ではない。

魔法薬学でいろいろ失敗したときにあまりに材料が勿体なくて編み出した呪文でレバロの応用に過ぎない。

杖ひと振りで家事が片付くとか!と盛り上がってそれ系の呪文はほぼマスターした。

先生にその情熱をどうか授業に、と懇願された記憶が懐かしい。




「つまり、ゼルガディスさんでやった場合、細切れのゼルガディスさんが出来上がるわけです」

「このままだとね」




それじゃあ意味がない!とゼルガディス君が憤慨する前に言葉を続けた。

杖をふりぷかりぷかり浮いていた玉をミックスジュースに戻す。

ゼロスの言う通り、このままだとスプラッタなゼルガディス君が出来上がるだけである。




「こんな原理でいろいろできるっていうこと。時間はかかるけど手がない訳じゃないわ」




すごく面倒だけど、医療忍術と念と錬金術と魔法の原理を混ぜてちょっとずつ人間に戻すことは可能のはずだ。

効果は父親にキメラにされた可哀想な少女と犬で証明済みだ。

すごく面倒だけど。




「本当か!!」




がん、とテーブルについた白く硬い岩に覆われた手が大きな音を立てた。




「でも、ゼルガディス君弱くなるわよ」

「なっ!」

「今の魔力も強さも防御力も減る。ただの人間になる。それでもいい?」

「・・・・当たり前、だ!今までどんな気持ちで、っ!」

「助けたい人も、守りたい人も、守れなくなるわ」

「っ!!!」




ゼルガディス君が言葉を失い、震える手を握り締めた。

強くなりたい、強くなりたいと願ったあの時。

何故強くなりたかったのか、思い出すといい。

確かにこの旅は君が元の体に戻ることを目的とした旅だけれど、それだけでは意味がない。




「治すためには時間がかかる。この旅も続けられない。みんなとも離れ離れでもう会えないかも知れないわね」

「・・・・別、に俺は!」

「リナちゃんの旅は体力いるし大変よ?アメリアちゃんはセイルーンのお姫様で、もっと強い人が彼女を守るのね」




テーブルについた手がぎりりっと握りしめられる。




「・・・・あいつは、守られるようなタマじゃないさ、」

「そうね」

「・・・・自分で何とでも国を守っていくだろ、」

「でしょね」

「じゃあ、いつかどこかの国の王子様と結婚されるんでしょうねぇ」

「っ!、俺には、関係ないことだ!!」




割り込んできたゼロスにゼルガディス君が耐えきれず大きな声を出した。

ちらりとゼロスを見るとゼルガディス君からの負の感情でご満悦のようだ。

生ゴミ魔族め。

がつんっとチャクラと念をガッツリ込めた右足でゼロスの脛を蹴りあげた。

声もなく悶絶する。

余計な口を挟むからこういう事になるのだ。

学習しろ千歳オーバー。




「ともかく、私はしばらくリナちゃんと旅を続けるつもりだし、色んな事に答えが出たら教えて頂戴。この旅が終わってからだって実家に帰るだけだから時間はあるもの」




おとーちゃんは泣くだろうけど。

血の繋がらない子どもにもあそこまで実子と変わらずすがれるおとーちゃんある意味凄い。




「なんで、そこまでしようとする。あんたの目的はなんだ?」




少し落ち着いたのかゼルガディス君が唇を噛み締めるように聞いてきた。




「あら、だってゼルガディス君はリナちゃんの友だちだもの」

「と、ともだ、!?」




となりのアホ魔族とは違う意味で弄りやすい子だ。

ついでに小首を傾げながらゼルガディス君の硬い髪を撫でてる。

頭を撫でられる事なんてなかったゼルガディス君が呆然としながらも顔を朱に染める。ちょっと紫っぽいけど。

それにしてもこの髪、なかなかいい素材だ。

これ使って魔法薬とか作れないかな?

そんなくだらない事を考えていると階段上から知った気配が降りてきた。




「あ!ゼルガディスさ〜、ん、・・・・」

「アメリア、?」

「あ、お邪魔しました!!」

「アメリア!!?」




バタバタと走り去るアメリアちゃんを慌てて追いかけるゼルガディス君。

何この美味しい青春模様。




「結界、張ったんじゃないですか? さん」

「音が漏れなくて周囲から見えにくくなるものをね。目眩ましみたいなものよ」




つまり見たい人にはしっかり見える。

誤解したアメリアちゃんをしっかり捕まえられるといいんだけど、ゼルガディス君、ヘタレだものね。




「さて、」




結界を解いて椅子に座り直し、蜂蜜酒を頼む。

鍛練はまた今度だ。

今は可愛い妹の可愛いお友だちの恋愛がうまく行くように杯を傾ける。

直訳すればやる気なくなった、ということだが、とにかく面倒なゼルガディス君の体を治す事を考えなくては。

面倒だ。

当たり前のようにちょこんと椅子に座り当たり前のようにミックスジュースをすすり始めるおかっぱ魔族に思い付いて声をかける。




「ねぇ、ゼロス。賢者の石持ってない?」

「ぶふぅぅぅううううっ!!」

「リナちゃんにあげた魔力増幅装置でもいいんだけど」

「げふ!げふん!!」

「あれって賢者の石みたいなもんでしょう?ないの?」

「・・・・・・・・ さんが当たり前のように伝説級の石の話をするのはもう諦めますけど、ちょっとぐらい心配してくれてもいいじゃないですか・・・・?」

「嫌よ」




何で器用に人間の真似してパフォーマンスしてみせる魔族に心配なんぞしなきゃならないのだ。

息しないのに気管支につまるか。

そもそも何で物を食べるんだ。

食べ物に謝れ。農家の皆様に謝れ。




「・・・・・・・・そんな眉間にしわ寄せなくても・・・・」

「あるの?ないの?」

「・・・・ありません」

「役に立たないわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




涙で机を濡らすとか本当に器用で芸達者だ。

黒いとんがりコーンが生意気な。




「面倒だわ」




賢者の石がないとすれば本当に時間をかけて何とかするしかない。

ゼルガディス君にはああいったけれど自分がいつこの世界から飛ばされるか分からない。

今までの統計だと一応やることがなくなった時か、死にかけた時だが、今回はどうなるか分からない。

そればっかりは私の手中にはないのだ。




「・・・ ・さん、どうしたんです?」

「何が?」




ゼロスには顔を向けずグラスを傾ける。




「・・・・美味しい気が、流れてきちゃってますが、」




それこそ本当に恐る恐るそう告げるこれは本当に魔族なんだろうか。

死の微笑でもなく笑顔でもない、自嘲に近い感情が表情をおおう。




「ゼロスがいろんな事に飽きて人間の真似事するぐらい、私もいろんな事に飽きちゃう事もあるのよ」




足掻く事に飽きて、すがる事に飽きて、期待する事に飽きて、生きる事に飽きて、



それでも生きる事を止められない。

だって、




「私、人間だもの」




どこの詩人だ。苦笑がもれる。




「・・・・高位魔族の僕を素手でどつき倒せるのにですか?」

「そうよ。高位魔族をどつき倒せようが、世界を転々としようが、若返ろうが、転生しようが、成り代わろうが、何があっても私は人間なのよ」




死神になった過去もあるがあれはあれ、これはこれ。

空になったグラスの隣に代金を置き立ち上がる。




「?それって、どういう」

「さて、ゼロス。食事はすんだ?」

「はあ、まあ」

「じゃあ行くわよ」




むんず、とゼロスの首根っこを引っ付かんだ。

盛大に顔を引きつらせるこの魔族は本当に芸達者だ。




「あ、あの〜、どこへ行かれるんですか?」

「修行よ。体が鈍っちゃうから 」

「え!今日ブラスデーモンの大群と戦いませんでしたっけ!!?」

「あんな犬っころのどこが修行になるのよ?」




気が変わった。

いつの世界もいつの時代も何が起こるか分からないんだから、その時その時を精一杯生きるだけだ。

私は今を楽しみたい。

今だけではなく、このいつまで続くか分からない生を、精一杯楽しむために。




「大丈夫よ、若作りの死にたがりジジイや、赤毛の不良中年なんかに簡単に負けないくらいには強くしてあげる」




やりたいことをやるだけだ。




「待ってください!僕が修行するんですか?ってその的確な表現の二人ってもしかして、じょ、冗談ですよね!!」

「ゼロス、私ね?」




おかっぱ魔族を引きずりながら外へ出る。

何とか逃げようともがいているが無駄なあがきというものだ。

夜の空気が心地好い。

忍も夜に生きる者だ。後輩に太陽みたいな子もいたが。




「この世界で嘘や冗談を言ったことないのよ」




魔族の悲鳴が夜の空に溶けた。





ちょっとしんみり入りました!
ゼルアメ捏造!(笑)まあガウリナも捏造だっけど!(笑)
これもしかしてゼロスとくっつくか?
いや、おそらくこのまま。仲良くはちょっとなったのか?
因みに若作りの死にたがりジジイは冥王フィブリゾ。赤毛の不良中年はガーブ。←間違えてたの直しました。
 

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