暇すぎる紫の空間での生活は突然終わりを告げた。
突如切り替わる視界。
瓦礫の中、
目の前におわすは黄金に輝く愛しき妹。
生ごみ魔族の腹の中に色んな道具一式置いて来ちゃったけど、まあ後で呼び寄せ呪文で食い破っておこう。





さん!」

!!」

「リナが!とことんに!!」




うん、混沌ですよ。
とことんの魔王って何よ。怒られるよガウリイ君。
焦る仲良し四人組に返事を返さず、目の前の王に膝をおり頭を下げた。
何百年ぶり、いや、千年ぶりぐらいの最高礼なのでぎこちなさが漂う。
最初の忍の世界以来な気がする。




 「お初御目にかかります、」




何と呼び掛けるか迷い、そっと顔を上げ、王の目を見て笑いかける。




「L様」




お会いできて至極光栄の至り、です。
いや、マジで。
一ファンとして、本当にどうにか頑張ったら会えないかなあと聖地巡礼してる時から思っていた。




『ほう・・・・迷い人か』




「はい、お邪魔しております」




何の問題もなくにこりと笑っていると思うなかれ。
冷や汗はびっちょりだし、全身にチャクラと念で完全防備。
いつでも逃げ出せる体勢である。
久しぶりの大物である。
そもそも規模が違う。
この世界を司るモノと各世界を迷うモノでは次元が違いすぎる。
それでも逃げずにここにいるのは一種のファン根性と、




「その娘、」




何より大事な妹の為。




「野放しの方が貴女の世界は面白くなりますよ」




なんせ主人公ですものね。




『・・・・』




ふんっと小さく鼻で笑った後、閣下は宙を飛び、混沌へと消えていく。
その笑みの意味は、同意だったのか不満だったのか。
真意は混沌の中。
しかし、彼女を追うガウリイ君の背中を見ながら、伝説だけは守られそうだ、と安堵の吐息をもらしたのだった。







「じゃあ、私たちはこれで」

「ちょっと待って?」




緑爽やかな道すがら。
二股に別れる道を左に進むは、アメリアちゃんとゼルガディス君とシルフィールちゃん。
シルフィールちゃんは本当にリナちゃんとガウリイ君が戻った時に出会ったばかりだがいい子だった。
ごめんね、ちょっと当て馬だなんて思ってた。
いや、ガウリナ派の私からしたら間違いではないのだけれども。




「どーしたの? 姉ちゃん」

「餞別があるの」




みんなの手にひとつずつ乗せたのは青緑のビー玉大の石。




「瀕死を一回だけ肩代わりしてくれるから」

「な!!!」

「えええ!!!」

「何それ!?どんなマジックアイテムなの!?」

「手作りよ」





暇を持て余していた紫の空間で出来上がった物のひとつだ。
残念な魔族の腹の中から呼び寄せてからその残念なのを見かけないが特に問題はないだろう。




「それから、」




ポーチを漁りイヤリングを取り出した。




「あれ?これって・・・・」

「そう。リナちゃんとお揃いなんだけど、ひとつ交換してくれないかしら」

「いいけど?」




全く同じディテールにする必要はないのだがリナちゃんに似合うものと唸るうちに同じ形になってしまった一品。
いいの。リナちゃんに似合えばそれで。




「リナちゃんが私に会いたくなったらそれを割って頂戴。一瞬で駆けつけるから」

さんが言うと本当に一瞬で駆けつけそうだな〜!」

「まさかね、まさか召喚魔法とか、じゃないわよ、ね?」

「魔法じゃないけど、一瞬よ」




呼び寄せの巻物の原理を利用してるので、文字どおり一瞬で現れる事ができる。
ちなみに、悪意によって壊されても召喚できるようになっているし、全精力を込めてステータスの底上げがしてある。
依怙贔屓?何とでも言うがいい。
リナちゃんが可愛いのがいけない。




「それと、」




最後に向き合うのはゼルガディス君。




「これは応急処置よ」




そう言って小さく丸めた丸薬のような紙を取り出す。




「これは?」

「飲める?」




不審そうな顔をしつつも私が折れないことをこの旅で思い知ったらしいゼルガディス君は素直にそれを飲み込んだ。
二本の指を彼のおへそ辺りに向け、鋭く息を吐く。




「異形を禁ずる」

『禁っ!!』




鋭く発せられたその言霊はゼルガディス君の体を貫いた。
そして、そこには、




「っ!!」

「ゼルガディスさん!!」

「ゼル!あんた・・・・!!」

「体が・・・・!!」




一人の青年が立っていた。
黒髪の、青年。
岩の肌のない、硬い髪のない、人間の、男。




「ゼルガディスさん!!ゼルガディスさん!!」




感極まったアメリアちゃんがゼルガディス君に飛び付き、受け止めきれず尻餅をつくゼルガディス君。
なかなか素敵な青春風景だ。
だが、




「戻った訳じゃないわ」




そう、これは応急措置なのだ。
幻覚の応用と昔どこかの世界で出会った黄金の眼、ゴールデンアイズなんてこっ恥ずかしい名前の根性激悪の魔術師と知り合った時の術の応用だ。
見た目手触りは完璧のはずだ。
それでも幻覚なので攻撃力防御力魔力共に前と変わらないという優れもの。
初めての事なので上手くいっているのか確認がしたいのだが、往来で脱がせて触り倒すのは色んな差し障りがあるのでやめておく。
本当はちょっと皮膚を剥がしたり、焼いたり、切ったりしたいが、しないわよ?
リナちゃんのお友だちだもの。




「魔力が昂ると前に戻って、鎮まるとまた人の姿になるの」




魔力の調査もしておきたかったがタイムアウトだ。
恐らく高位魔族と戦わない限り大丈夫だと思うが。




「でも、本当に戻った訳じゃないわ。嫌ならやめるけど、どうする?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・いや、恩に着る」




少し涙声だったのは聞かなかった事にする。
これでまだ旅を続けて本当に戻るも良し、アメリアちゃんと結婚するも良し。
たくさんの悲しみと苦しみと孤独を越えてきたのだから、そろそろご褒美があってもいいと、私は思う。
え?甘やかしてる?当たり前じゃない。リナちゃんのお友だちだもの。




「じゃあ、またね」




くるりと背中を向ける。




姉ちゃん?故郷に帰るのよね?」

「ええ、帰れれば」

「え?」

「大丈夫、それでいつでも呼んで頂戴」




本当にタイムアウトだ。
軽く手を振りながら歩き出す。
できれば父ちゃんと母ちゃんとルナさんの顔を見てから行きたかった。
でもまあ、やりたいことはやったし、L様にまで会えちゃったし、保険はかけた。
リナちゃんが呼んでくれるのを気長に待てばいい。




「で、ここはどこかしらね」




空気が変わった。
ほがらかな野山から、鬱蒼とした山の中へ。
じめじめとした空気が体にまとわりつく。
体を見下ろすと、さっきのまま。
つまり今回は普通のトリップらしい。
異世界トリップに普通も糞もないが。
立っていても仕方がない。
少しの哀愁と切なさを飲み込んで前を向いた瞬間、




「あれ? さん、ここって何処です?さっきまでリナさんたちと一緒にいましたよね?僕たち」

「え・・・・?」




思わず目を見開く。
そこには言わずと知れた安定の残念生ゴミおかっぱ魔族。




「何か酷いこと考えてません?あ!酷いといえば!酷いですよ さん!!本当に精神世界食い破る事ないじゃないですか!!言ってくれれば忘れ物ぐらいちゃんと届けますよ僕だって!」

「・・・・食い破られて、平気なのゼロス」

「平気なわけないでしょう!?さっきまで本性のままのたうち回ってましたよ!!」

「さっきまで?」

「ええ、突然治ったみたいなので文句言いに来たんです、が・・・・」




これって さんのせいですよね?と不満たらたらに呟くおかっぱには正しく教育的指導を入れもう一度悶絶させる。
ここは、スレイヤーズの世界ではない。
それは絶対だ。
空気が違う。
気配が違う。
そもそもここには世界中探ってもリナちゃんの気配がない。
なのに、そこに、この男がいるということは?




『たくさんの悲しみと苦しみと孤独を越えてきたんでしょ?なら、たまには二人もいいんじゃないの?』

「っ!!」




確証はない。
ただ、頭に響いた声と一瞬脳に現れたら金髪美女のイメージ。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さんは、あの御方ともコンタクトがとれちゃうんですか?」




僕、今、滅しそうになったんですけど、と茫然自失で呟く下っぱ魔族。
彼女の配下が言うなら間違いないのだろう。




「なるほど、」




二人。
各世界にたくさんの人と出会った。
世界にいる間は決して一人ではなかった。
嫌でも、人と関わるはめになったりもした。
それでも、
また一人で世界をさ迷っていた。
何度も何度も、
永遠と続くかもしれないこの旅路。
それを、
たまには、
二人で。




「粋ね」




流石L様。
規格が違う。




さん?」

「行きましょう、ここでぼんやりしてても仕方がないわ」

「ちょっと!僕戻れるんですよね!?」

「さあ?全てはL様の御心のままよ」

「冗談でしょう!?嘘ですよね!? さーん!!」




旅は続く。
心のままに。

inserted by FC2 system